満月の誘惑





畑の土が泥濘(ぬかる)んでいたのも気づかず、食い気味に両親を問い詰めようと一歩踏み出して、泥に向かって一直線に転けてしまった。


お父様に支えてもらって、どうにか立ち上がる。



顔には、べっとり泥がついた。

でも今は、どうでも良い。





「私に黙ってようと思ったんですか?」


「柚葉が荘司さんを追いかけるのも分かってたし、追いかけた先で知ることも分かってたわ。でもそれで荘司さんを捨てるほど、軽い人間じゃないでしょ?」


「少しびっくりしてショックだったけど…。でも旦那様は旦那様だから」


「そう、それだ。それを母さんは信じてたから、言わなかったんだ。柚葉が自身で知って、立ち向かって、どうしていくか。見守ろうってなったんだ。黙ってて、すまなかったな」




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