満月の誘惑




「代々佃家は狼人間の遺伝を受け継ぎ、私の父親も狼人間だ。母親は嫁いできた身で、普通の人間だから、満月が来ると父と二人で家を空けていた。

森の中で出会って殺してしまったもの、他の狼と過ごしたことは全て忠実に覚えている。とても辛いし、苦しい。死んでしまった方がマシだと思うこともある。だが柚葉を森の中で見た時、一瞬だが人間の意識が体の中に入ってきて、心を支配してきた。この子だけは守らなければと」





旦那様は時々顔を顰めながらも、次々に思いを言葉にしてくれる。

そして私と森で会った時の話になると、目を垂れ下げて、肩まで乱雑に伸びている私の髪を梳かすように、旦那様の手が行き来した。



やはり、狼になった旦那様と鉢合わせた時と、囲まれたところを襲われずに済んだ、あの偶然の奇跡は、偶然ではなく旦那様の意思の結果だったんだ。




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