満月の誘惑
「愛する人を目の前にした時、感情が揺らいだ。それに不思議なんだが、今日は人間に戻った時、辛くなかったんだ。体は多少怠かったが胸が熱くて、早く帰らねばと足が動いた」
今こうやって旦那様を見ていても、この姿から狼になったのは、嘘だったんじゃないかと疑うほど。
傷はあるし息も荒いし、そういう面では疑わしいけれど、頭にあった手が私の手に下りてきた時、少し触れただけで解けてしまうような、脆いものを触るような繊細な手つきだった。
「旦那様…。私、旦那様を待っている間、私に言ってくださった言葉を思い出していたんです。ありのままを受け止めると言ってくださったこと、覚えていますか?」
「もちろん。私は柚葉の全てを受け止める」
「それは私も同じ気持ちです。旦那様が狼であろうと、ありのままを受け止めます。旦那様は私にとって大事なお方ですから」