転生治癒師の私が第二王子を攻略してしまった件について
次に目を覚ました時には日は沈んでいて、暖炉の灯りだけが部屋を照らしていた。ゆっくり起き上がると、先ほどの壮年の女性──母親のアイリーンが慌てて私の元にやってきた。
「もう大丈夫なの?」
「うん。ごめんね、お母さん」
「ご飯は食べられそう?」
「食べたい」
「お腹が空いたなら、もう大丈夫ね。少し待っていて」
アイリーンは竈へと戻っていった。私は小さくなった手のひらを見下ろして、ため息をつく。
これは所謂、異世界転生ってやつだ。前世で見たアニメを思い出し、私は確信した。異世界転生とは何らかの事情で死んだ主人公がファンタジー世界に転生して様々な活躍をする冒険譚だ。大体、神様と会って何か素晴らしい能力をいただけるのだが、私の場合はそうじゃないらしい。
この世界には魔王がいるし、魔法もある。だけど、私は才能があるかどうかを見る洗礼すら受けられない貧しい農村の子供だ。魔法なんて使えないのだろう。
でも、前世の知識が残ってる。きっと、それだけは何かに役立つはずだ。
私はグッと手を握り締め、決意する。この異世界で何としてでも生き延びる。まずはそれからだ。
「エミリー、スープができたわよ」
「ありがとう、お母さん」
アイリーンの運んできた木のお椀を受け取って私は絶句する。その中身はほぼお湯だ。野菜の切れ端なんて、ほんの少ししか浮いてない。恐る恐るスプーンで掬って食べるも、ほぼ味がしない。だけれど、食べ慣れた味だ。これがいつもの食事なのだ。
もっと美味しいものをお母さんと一緒に食べたい。前世の知識を使って医者になってガンガン稼ごう。生き延びるだけじゃダメだ。
「お母さん、美味しいよ。ありがとう」
笑顔で見上げると、アイリーンはホッとした顔をした。
「明日は畑の手伝いできそうかしら?」
「うん! 頑張る!」