女嫌いない年下のおとこのこ
まさか応援していた筈の自分が、一ノ瀬の不安を煽っていたなどと思いもしなかった。ーーいや、本当は分かっていた。
分かっていたから、協力するフリをしていたのだ。
誓って言うが、聖に横恋慕の気持ちは微塵にも無かった。けれど結果的に、同僚の恋路を邪魔してしまった事は事実である。
それから聖は何も言えなくなり、視線を落とした。浮気は許せる事ではないが、自分が怒れる立場にも無かった事をひどく後悔した。
「ごめん…」
何故わざわざ別れた事を報告してきたのか漸く理解した。これはある意味、一ノ瀬なりの復讐なのだ。
「…俺も悪い。八つ当たりだって分かっててやった。お前がすげえいい奴なの知ってるのにな」
一ノ瀬はそう言うと、生ジョッキを一気飲みした。それから大きく息を吐いた後、口周りに泡をつけたままニカッと笑いながら平手打ちされた頬を指でつつく。
「だからさ、これで勘弁してくれねえか?」
「…一ノ瀬くん」
「これでも最低な事した自覚はあるから。響いたよ、お前の平手打ち」
そうしてお互い今後はまた気を許せる同僚として接する事を約束し、二人で意識の許す限り酒を煽った。
一ノ瀬はそれ以上瑞希との話をしようとしなかったし、聖も聞かなかった。ただの同僚として、たわいも無い話をした。
けれど酒に弱い一ノ瀬がビール3杯でギブアップしたのと対称に、ハイボールへシフトした頃、聖が恋愛って難しいね、なんて呟いた事に対し「お前彼氏とか作る気あったんだな」と真顔で言われた時には、流石に今後は身の振り方を考えなければな、と思わざるを得なかった。