女嫌いな年下のおとこのこ
こうしてなんだかんだと絆されてしまうからナメられるというのは分かっているのだが、瑞希に甘いのはもう性分なのでどうにもできない。
そう頭を抱えていると「聖」と瑞希が名前を呼んできた。
「俺、明日から家戻るわ」
「え、明日?」
「おー。ストーカーももういねえしな。世話になった」
「それは良かったけど…でもその手で家事とかどうするの?」
瑞希はそこそこと誤魔化したがそれなりに深い傷だ。
痛みも酷いだろうし、しかも利き手とあれば殆どの事が制限されてしまう。
何とかなんだろ、と本人は言うが聖はそれで納得出来なかった。
「元々あと1週間いる予定だったんだから、うちに居なよ」
「んな事言ったってこの手じゃ何もできねえぞ」
「私がやる!」
身を乗り出しながら言えば、瑞希は「はあ?」と怪訝な顔をする。
「ワーカーホリックが何言ってんだ」
「私が使ってないだけで、うちの会社にだってリモート制度はあるんだよ」
入社してから頑なに出社を貫いていた聖だったが、ここに来て初めてリモート制度を利用する決意を固めた。
「今週は出張も無いし、家で仕事するよ。家事は私が全部やるから、瑞希くんは安静にしてて」
「…本気か?」
「これでもこの3週間、瑞希くんに鍛えられたから前よりは成長したんだよ」
実のところそれほど自信があるわけではなかったが、瑞希をこのまま帰す方が心配だった。
傷が開いてしまったら、思うように動けないせいでまた怪我をしたら、そう思うと居ても立っても居られなかった。
そんな聖の必死な様子を悟ったのか、瑞希は左手で頭を掻きながら「分かった」と了承した。
「じゃああと1週間、世話になりマス」
「良かった!不自由あったら何でも言ってね」
その夜は直ぐに聖がソファーベッドを整えて各々眠りにつくことにした。
波乱はあれど瑞希の問題が解決した事に少し安堵を覚えつつ、翌日からのシュミレーションをしながら聖は心地よい眠りについた。
そんな聖とは対照的に、瑞希がなかなか眠りにつけずにいた事など夢にも思わず。