女嫌いない年下のおとこのこ
「…え、マジか。一ノ瀬くん、本当に?」
年度末の繁忙期だというのに無理やり時間を作ってくれと一ノ瀬に懇願され、聖は幼馴染関係の悩みだろうなとしぶしぶ定時に仕事を切り上げて二人で飲みに来ていた。
これまで何度か瑞希との交際について半ば無理やり話というか惚気を聞かされていたから仲良くなっているんだろうと疑いもしなかったので、一ノ瀬から別れたと聞いた時は青天の霹靂だった。
「おお、マジ。俺から言った」
「えっと…理由を聞いても?」
「キレないって約束してくれるなら話す」
呼び出して話を聞けと言ったくせに勝手だなと思いつつ、お人好しが身に染みてしまっている聖には一ノ瀬の落ち込んだ様子を放っておけなかった。
「分かったよ。話して」
「…俺が浮気したのバレた」
バチン!と平手打ちした音が響き渡った。
驚いた周囲の客からの視線が一気に集中したが、お得意の完璧な営業スマイルで「お気になさらず〜」と誤魔化しておいた。
「キレないって言わなかった?」
「殴らないとは言ってないよ」
叩かれた頬を押さえながら涙目で見上げる一ノ瀬に、しれっと聖は屁理屈を返す。
本当は顔が腫れ上がるくらいひっ叩いてやりたいが、話が出来なくなったら本末転倒なのでそれは抑えた。