ReTake2222回目の世界の黒田美咲という世界線
4:価値観の相違
中学3年生のクリスマスも近付いてきた時期。私は花楓と学校帰りに横浜で買い物をする予定だった。中等部の私達は電車通学でかなりの距離を移動するのが面倒ではあるが、帰りにちょっと寄り道ができる自由さがあるのは嬉しい。
いつもの時間に学校を出て、いつもの道を歩き、いつもの電車に乗ろうとした時に、知らない高校生位の男子に呼び止められた。
「あの、ちょっとすみません」
花楓が強めの口調で言った。「なに?」
「えっと、いつもこの駅でお見掛けしています。桜田宗次と申します。南港高校の1年E組の生徒です。名前も存じ上げないのですが、貴女にお友達になっていただきたかったので、手紙を書きました。読んでいただけませんか?」
私に身体と視線を向けて「貴女に」と言ったのだから、これは私への告白とみて間違いない。とても礼儀正しく実直そうな人だ。威圧感もなく好感が持てる。こちらも礼を尽くしてちゃんと対応しよう。そう思った矢先に花楓が言った。
「あんたねぇ、何のつもりよ?!私達これから横浜で買い物なの!タイミング悪すぎでアウトだわ!ご縁が無いの!残念だけどそういう事だから!」
「お忙しいところお声がけしてすみませんでした。あとで時間がある時に、この手紙を読んでいただ頂けませんか?自分の連絡先も書いてあります。よろしくお願いします」
「だから!タイミング悪いのよ!その手紙も引っ込めて、他の女とのロマンスをご期待ください!」
「花楓ちょっと待って。桜田さんはあんたじゃなくって私にこの手紙を書いてくれたの。だからこれは私の問題だわ?私はこの手紙をもらう」
私は桜田さんの方に歩み寄り手紙を受け取って頭を下げて言った。
「桜田さん。勇気を出してくれた事に感謝を申し上げます。友人が無礼な口を利いた事もお許しください。手紙は読ませてもらいますけれど、ごめんなさい。お友達になる事もお付き合いする事もできません。私には憧れている人がいます。その人がいる限りは、男性の友人を作る気にはなれません。どうかご理解ください」
私はもう一度頭を下げた。
「わかりました。でも、でももし、手紙を読んでいただいて、気が向いたら連絡をいただければと思います」
「そうですね。わかりました。後ほどお手紙は読ませてもらいますね」
桜田さんは何度か振り向き頭を下げながらホームの階段を昇って行った。
到着した電車の中で花楓が言った。
「美咲はさぁ、ああいうの酷だと思わないの?」
「は?あんたの口の利き方が酷いだけでしょ?それなりの勇気を出してくれたんだから、私としては敬意を持って接したつもりよ?全員と付き合えとでも言うの?」
「そうじゃなくってさぁ、あんたが私みたいにさ、そこに可能性を見つけて付き合ってみようって美咲が思うなら良いんだけどね。あんた付き合わないし、友達にもならないんでしょ?そして手紙も読まない」
「そうね、友達になるつもりはないわ。だから手紙を読む時間は無駄ね」
「だったらもっと突き放さなくちゃ。即死させなきゃ。相手はずっと待っちゃうんだよ。あんたからの連絡を!」
「ちょっと待ってよ。じゃあ花楓みたいに酷い言葉を騒音のようにぶちまけて相手を傷つけろって事?」
「結局傷つくんだって。先にバサッと切って即死させるか、あんたみたいに微量の毒でジワジワ苦しませながら殺すかの違いでしょ?」
「価値観の相違ね。私には花楓みたいな言い方はできない」
「美咲は普段から酷い口の利き方してるじゃない。クラスメイトにもこないだ告白してきた男にも」
花楓と会話は続けながら私は考えていた。もし私が東京大会で悠太君に自分の連絡先を渡したらと考える。きっとずっと待ってしまい、だんだんと不安になり、徐々に傷ついていくんだろうと考えると、花楓の言っている事にも一理あるとは思う。
「……まあいいわ。私と花楓の価値観の相違ね」
「美咲はそういう育ちだからだよ。人の期待に応えなければならない環境だからわからんでもないけどさ。嫌われたらそれまでなんだから、嫌われるのを怖がってどうするのよ」
「私が人から嫌われるのを恐れているって思っている?」
「それ以外何があるのよ」
「……でも私は、少なくてもクラスメイトから、わりと嫌われていると思わない?」
「どうでもよい相手からはね、美咲はある意味利己主義だから。自分がどうでもよくないと思った相手に嫌われるのを怖がるのよ。さっきの人みたいにちゃんと敬意をもってくれる人には嫌われたくないし、前のみたいに初対面で俺とか言っちゃうバカにはどう思われてもいいと思ってんのよ」
いくら相手の為といったって、敬意をもって接してくれている人に、あえて失礼な事を言ってバッサリ切って嫌われろと言われても……私にはできないな。誰かの為に自分を嫌いにさせるって、ちょっと嫌だな。そもそもそれが誰かの為になるなんて、何を根拠に立証させられようか?でもこれって「利己主義」という言葉にぴったりなのではないか?私は花楓の言う通り利己主義なのか?論理的思考はそれ自体利己主義と言えなくはないけど……私は利己主義だったのか。否定できる要素がまるっきり、まったく無いけれど、自分が利己主義であるという認識が無かったかもしれない。ちょっとショックだ。
「……なんか……嫌なやつね。私」
「はははは。何をいまさら」花楓は笑い飛ばした。
いつもの時間に学校を出て、いつもの道を歩き、いつもの電車に乗ろうとした時に、知らない高校生位の男子に呼び止められた。
「あの、ちょっとすみません」
花楓が強めの口調で言った。「なに?」
「えっと、いつもこの駅でお見掛けしています。桜田宗次と申します。南港高校の1年E組の生徒です。名前も存じ上げないのですが、貴女にお友達になっていただきたかったので、手紙を書きました。読んでいただけませんか?」
私に身体と視線を向けて「貴女に」と言ったのだから、これは私への告白とみて間違いない。とても礼儀正しく実直そうな人だ。威圧感もなく好感が持てる。こちらも礼を尽くしてちゃんと対応しよう。そう思った矢先に花楓が言った。
「あんたねぇ、何のつもりよ?!私達これから横浜で買い物なの!タイミング悪すぎでアウトだわ!ご縁が無いの!残念だけどそういう事だから!」
「お忙しいところお声がけしてすみませんでした。あとで時間がある時に、この手紙を読んでいただ頂けませんか?自分の連絡先も書いてあります。よろしくお願いします」
「だから!タイミング悪いのよ!その手紙も引っ込めて、他の女とのロマンスをご期待ください!」
「花楓ちょっと待って。桜田さんはあんたじゃなくって私にこの手紙を書いてくれたの。だからこれは私の問題だわ?私はこの手紙をもらう」
私は桜田さんの方に歩み寄り手紙を受け取って頭を下げて言った。
「桜田さん。勇気を出してくれた事に感謝を申し上げます。友人が無礼な口を利いた事もお許しください。手紙は読ませてもらいますけれど、ごめんなさい。お友達になる事もお付き合いする事もできません。私には憧れている人がいます。その人がいる限りは、男性の友人を作る気にはなれません。どうかご理解ください」
私はもう一度頭を下げた。
「わかりました。でも、でももし、手紙を読んでいただいて、気が向いたら連絡をいただければと思います」
「そうですね。わかりました。後ほどお手紙は読ませてもらいますね」
桜田さんは何度か振り向き頭を下げながらホームの階段を昇って行った。
到着した電車の中で花楓が言った。
「美咲はさぁ、ああいうの酷だと思わないの?」
「は?あんたの口の利き方が酷いだけでしょ?それなりの勇気を出してくれたんだから、私としては敬意を持って接したつもりよ?全員と付き合えとでも言うの?」
「そうじゃなくってさぁ、あんたが私みたいにさ、そこに可能性を見つけて付き合ってみようって美咲が思うなら良いんだけどね。あんた付き合わないし、友達にもならないんでしょ?そして手紙も読まない」
「そうね、友達になるつもりはないわ。だから手紙を読む時間は無駄ね」
「だったらもっと突き放さなくちゃ。即死させなきゃ。相手はずっと待っちゃうんだよ。あんたからの連絡を!」
「ちょっと待ってよ。じゃあ花楓みたいに酷い言葉を騒音のようにぶちまけて相手を傷つけろって事?」
「結局傷つくんだって。先にバサッと切って即死させるか、あんたみたいに微量の毒でジワジワ苦しませながら殺すかの違いでしょ?」
「価値観の相違ね。私には花楓みたいな言い方はできない」
「美咲は普段から酷い口の利き方してるじゃない。クラスメイトにもこないだ告白してきた男にも」
花楓と会話は続けながら私は考えていた。もし私が東京大会で悠太君に自分の連絡先を渡したらと考える。きっとずっと待ってしまい、だんだんと不安になり、徐々に傷ついていくんだろうと考えると、花楓の言っている事にも一理あるとは思う。
「……まあいいわ。私と花楓の価値観の相違ね」
「美咲はそういう育ちだからだよ。人の期待に応えなければならない環境だからわからんでもないけどさ。嫌われたらそれまでなんだから、嫌われるのを怖がってどうするのよ」
「私が人から嫌われるのを恐れているって思っている?」
「それ以外何があるのよ」
「……でも私は、少なくてもクラスメイトから、わりと嫌われていると思わない?」
「どうでもよい相手からはね、美咲はある意味利己主義だから。自分がどうでもよくないと思った相手に嫌われるのを怖がるのよ。さっきの人みたいにちゃんと敬意をもってくれる人には嫌われたくないし、前のみたいに初対面で俺とか言っちゃうバカにはどう思われてもいいと思ってんのよ」
いくら相手の為といったって、敬意をもって接してくれている人に、あえて失礼な事を言ってバッサリ切って嫌われろと言われても……私にはできないな。誰かの為に自分を嫌いにさせるって、ちょっと嫌だな。そもそもそれが誰かの為になるなんて、何を根拠に立証させられようか?でもこれって「利己主義」という言葉にぴったりなのではないか?私は花楓の言う通り利己主義なのか?論理的思考はそれ自体利己主義と言えなくはないけど……私は利己主義だったのか。否定できる要素がまるっきり、まったく無いけれど、自分が利己主義であるという認識が無かったかもしれない。ちょっとショックだ。
「……なんか……嫌なやつね。私」
「はははは。何をいまさら」花楓は笑い飛ばした。