ReTake2222回目の世界の黒田美咲という世界線
7:競泳東京大会
「あんたさぁ、美咲ともあろうモテモテネガティブロジカルモンスターがさぁ、なんで小学生に夢中になってるの?」
花楓と二人で長水路中学生選手権に向かっている電車の中だ。
「だから中学生だってば」
「同じ様なもんでしょ?」
「花楓が付けた私の二つ名が長すぎなのよ」
「何が良い訳?選り取り見取りな美咲が何故に中学生?」
「……音楽がね、聞こえたのよね……」
「は?何それ?」
「お父さんが車でかけていた曲がね。~土曜の夜は朝まで君を抱く、窓の外過ぎて行く世の中で二人動かずに~、って曲なんだけどね。それが流れるの。彼が私の視界に入ると」
「は?なにそれ?」
「わかんないけど、その曲が流れてね、ギュ~っと伸びる平泳ぎが気持ち良いって思って、ゴーグル取った笑顔で、もう、もうね……」
「きゃはははは。あんた顔真っ赤になってるし。その中学生に夢中になってる理由になってないし」
「とにかくわかんないの!自分でもわからないけど、もうね。もう……」
「お~たのしいな~。幼児舎の頃から40歳の精神を持った美咲との付き合いも長いけれど、ここまでデレデレモードの美咲は初めましてだなぁ」
散々「からかわれている」うちに会場に到着した。準備はしておくべきなので、今回も大きなサングラスと小型なのに望遠撮影が可能なカメラは借りてきている。お父さんにカメラを貸してほしいと言った時に「そういえばこの前一ノ瀬さんのお孫さんと会って、一緒に行くのかと聞いたんだよ」と言っていた。これで花楓の情報筋を探る事ができた訳だが。
さすがに花楓と一緒じゃ、写真は撮れるけれど握手はちょっと無理だと思っている。
――「男子平泳ぎ100メートル予選2組」
「お!美咲。いよいよじゃない、って、カメラ小僧かよ」
私はもう花楓なんて気にできない。悠太君の笑顔の、真剣な顔の、泳いでいる姿の写真を撮るのに必死だ。
なんで私はこんなにこの人の事が好きなんだろう。声を聞いた事があるのは、去年握手をしてもらった時だけなのに。なんでこんなに好きなんだろう。
「ちょ、ちょっと、あんたなんで撮影しながら泣いてるのよ!」
私はファインダー越しの悠太君を見ていると涙が流れてきた。なんだかわからないけれど、涙が流れてきた。
タイムは?ああ、微妙だ。決勝は無理かもしれない。
私は気が付くと、花楓を置いて選手通路に向かって走り出していた。走りながらサングラスをして。
来た。悠太君が来た。私は手を振ってしまった。
「あれ?去年も中学大会に応援に来ていてくれた人ですね!うれしいなぁ!今年の泳ぎはどうでしたか?」
「も、もう、もう、ギュ~ンって、すっごいカッコよかったです」
「ホントですか?!やった!」
悠太君が抱きついてきた。
「来年ももっと頑張りますね、あれ、泣いているんですか?」
私は必死に首を左右に振った。でも声が出せない。声を出したら全部が崩れてしまう。両手を悠太君に差し出した。
「良かった、嬉しくって抱きついちゃってゴメンナサイ。泣かせちゃったかと思いました」
悠太君は両手をしっかり握って握手をしてくれた。
私はもう頭がボ~ッとしてしまって、振り向くと私の荷物まで持った花楓がいる。
「美咲……あんた……それ本気なの?……」
サングラスで隠してはいたけれど、涙が止まらなかった。
「花楓……私……どうしちゃったんだろう……」
「……こっちのセリフだよ」
楓も涙を流していた。
帰りの電車の中では、二人ともほとんど無言だった。でも花楓はずっと、うつむく私の頭に手を当てて撫でてくれていた。
花楓と二人で長水路中学生選手権に向かっている電車の中だ。
「だから中学生だってば」
「同じ様なもんでしょ?」
「花楓が付けた私の二つ名が長すぎなのよ」
「何が良い訳?選り取り見取りな美咲が何故に中学生?」
「……音楽がね、聞こえたのよね……」
「は?何それ?」
「お父さんが車でかけていた曲がね。~土曜の夜は朝まで君を抱く、窓の外過ぎて行く世の中で二人動かずに~、って曲なんだけどね。それが流れるの。彼が私の視界に入ると」
「は?なにそれ?」
「わかんないけど、その曲が流れてね、ギュ~っと伸びる平泳ぎが気持ち良いって思って、ゴーグル取った笑顔で、もう、もうね……」
「きゃはははは。あんた顔真っ赤になってるし。その中学生に夢中になってる理由になってないし」
「とにかくわかんないの!自分でもわからないけど、もうね。もう……」
「お~たのしいな~。幼児舎の頃から40歳の精神を持った美咲との付き合いも長いけれど、ここまでデレデレモードの美咲は初めましてだなぁ」
散々「からかわれている」うちに会場に到着した。準備はしておくべきなので、今回も大きなサングラスと小型なのに望遠撮影が可能なカメラは借りてきている。お父さんにカメラを貸してほしいと言った時に「そういえばこの前一ノ瀬さんのお孫さんと会って、一緒に行くのかと聞いたんだよ」と言っていた。これで花楓の情報筋を探る事ができた訳だが。
さすがに花楓と一緒じゃ、写真は撮れるけれど握手はちょっと無理だと思っている。
――「男子平泳ぎ100メートル予選2組」
「お!美咲。いよいよじゃない、って、カメラ小僧かよ」
私はもう花楓なんて気にできない。悠太君の笑顔の、真剣な顔の、泳いでいる姿の写真を撮るのに必死だ。
なんで私はこんなにこの人の事が好きなんだろう。声を聞いた事があるのは、去年握手をしてもらった時だけなのに。なんでこんなに好きなんだろう。
「ちょ、ちょっと、あんたなんで撮影しながら泣いてるのよ!」
私はファインダー越しの悠太君を見ていると涙が流れてきた。なんだかわからないけれど、涙が流れてきた。
タイムは?ああ、微妙だ。決勝は無理かもしれない。
私は気が付くと、花楓を置いて選手通路に向かって走り出していた。走りながらサングラスをして。
来た。悠太君が来た。私は手を振ってしまった。
「あれ?去年も中学大会に応援に来ていてくれた人ですね!うれしいなぁ!今年の泳ぎはどうでしたか?」
「も、もう、もう、ギュ~ンって、すっごいカッコよかったです」
「ホントですか?!やった!」
悠太君が抱きついてきた。
「来年ももっと頑張りますね、あれ、泣いているんですか?」
私は必死に首を左右に振った。でも声が出せない。声を出したら全部が崩れてしまう。両手を悠太君に差し出した。
「良かった、嬉しくって抱きついちゃってゴメンナサイ。泣かせちゃったかと思いました」
悠太君は両手をしっかり握って握手をしてくれた。
私はもう頭がボ~ッとしてしまって、振り向くと私の荷物まで持った花楓がいる。
「美咲……あんた……それ本気なの?……」
サングラスで隠してはいたけれど、涙が止まらなかった。
「花楓……私……どうしちゃったんだろう……」
「……こっちのセリフだよ」
楓も涙を流していた。
帰りの電車の中では、二人ともほとんど無言だった。でも花楓はずっと、うつむく私の頭に手を当てて撫でてくれていた。