喧嘩するけど、君がいい

居酒屋、友達



-・ ・・・- --・ ・--・ 


「あかん…………好きすぎる〜〜〜〜〜!」


「うるさい。お店に迷惑だよ、律」


「俺は今、センチメンタルやの。
突然叫び出したくもなるの」


「その様子だと……
昨日も特段の進展なかったんだね、美紅ちゃんと」


「…………わかったなら、
良心的な一言で慰めてよ、"タクマ"」


「無理無理。ボクには荷が重いって。
"十数年間"想いを拗らせ続けた、こじらせボーイの慰安係なんて」


「"16年間"な」


「16……コワぁ…………」


「てか、タクマ。すっかり関西弁抜けてるやん。
一緒に帰ってきた時、『〜やで』くらいは言うてなかった?」


「ボクは律と違って、そんなに"どっぷり"じゃなかったからね。話し方も、恋愛も」


「くそ……腹立つドヤ顔。別にウマないねん」


「一途なのは、良いことだと思うよ?」


「やー、ほんま…………不毛よなぁ」


「だからー。
そんなの最初から分かってたでしょ。
"圭さんを好きになった美紅ちゃん"を、キミは好きになったんだから」


「そうやけどさぁ………………」


「ほんと、改めて考えても漫画みたいだよね。
"男勝りな幼馴染の女の子が、恋に落ちた瞬間を目撃して……!?"みたいな見出しの」


「今思えば、その時の[衝撃]に恋したんかなぁ」


「まーたそうやってカッコつけちゃって。
それがなくたって、どうせ律は同じ穴に落ちてたと思うよ」


「……なぁ、コトバのヤイバが痛いんやけど。
手加減って知らん?」


「え、まだ峰打ちしかしてないのに。
てかさぁ……ウジウジ考えてる暇があるなら、
いっそのことハッキリ言ってみれば?」


「無理やろ、今更…………告白とか」


「いや、現状でイキナリ『律の気持ちを告げろ』って話じゃなくて。
それよりも先に……」


「え?」



「…………美紅ちゃんにこそ、
『不毛な恋はやめな』って言ってみるべきじゃないの?って話」



「………………それこそ、言えるわけないやん。
アイツが一番わかってるよ。そんなこと」


「なんだかんだ言ってても、結局優しいんだよね。律って」


「……うるさいなぁ。
ってか、俺のそんな一言でやめられるくらいなら……とっくにやめてるやろ、アイツだって」


「……まぁ、そりゃそうか。
美紅ちゃん……どーするつもりなの?
7月の"圭さんの結婚式"」


「行くつもりらしい」


「わぁ…………ツライね」


「……なんかもう、見てられんかったで」


「うん?美紅ちゃん?」


「そう。この前、
圭兄から直接、招待状手渡されとってさぁ……」


「うわ、キツ」


「受け取ったハガキ、じぃって見つめて……
絶対、泣きそうになってんのに我慢して、
必死の笑顔で『行く』って返事しとったわ」


「キッッッツ……重すぎるって」


「な。それ以降、(結婚)の話題には触ってない。俺も……美紅も」


「うーん。そうなるよねぇ」


「はぁ……
どこまでいっても、救いナイよなぁ。
お互いにとってさ」


「……ボク、お似合いだと思うけどね。
律と美紅ちゃん」


「え、そう?」


「うん。雰囲気が似てる……っていうか。
笑い出すポイント、同じだし。
会話で使う単語とかも、すぐ移ってるし」


「あー。それはある」


「まぁ、どちらかといえば……
2人のことを中学の頃から見てきた身として、
"幸せになってほしい"って気持ちが大きいかも。
もちろん、2人ともね」


「タクマ……ええ奴やなぁ」


「今更気付いたの?」


「いや、知ってた」


「…………とにかく。
律は、そろそろ自分を変えてかなきゃ。
じゃないと、一生「不毛」って言い続ける羽目になるよ?それこそ不毛だよ」


「う゛っ……」


「ちょっとずつ、なんでもいいからさ。
もっとアピールしていきなよ。
『今日の服似合ってる』とか『一緒にいれて嬉しい』とか『可愛い』とか」


「難易度:エキスパートやん……」


「どこが。どう考えてもビギナーでしょ」


「今の俺には、
"ワザと変な関西弁で気ぃ逸らさせる"程度が精一杯なの」


「え、何してんの?」


「そりゃ、いつかはストレートに……って思うけどさぁ…………。
まだまだ時間かかりそうやわ」


「はぁ……ほんと、律って…………。
分かりきってたコトだけど、
やっぱ行くべきじゃなかったよね、関西。
素直に同じ大学通ってたら、今頃は違ってたかもなのに」


「……し、しゃーないやろ。
いっ……行きたかった学部が、あったから……」


「え、なんのためのソレ?
今更、そんな"見え透いた嘘"が通じるとでも?
全部知ってるボクに?」


「いやぁ……
そういうことにしといて欲しいなーって願望。
俺史上No.1黒歴史やからサ」


「まぁ、そうだろうね。
あまりの不毛さに"闇堕ち"してたって感じでしょ?
受験シーズンの頃の律」


「いや……うん……だって…………
……なんか、すーげぇしんどかったんやもん。
それに……その時は本気で思っとったし。
"遠く行って会わんようにすれば、忘れられる"ってさぁ」


「で、結果は?」


「…………言わんよ。わざわざ。
それこそ知ってるやろ」


「はは。うん。
結局、誰とも付き合わなかったもんね。
大学でも相変わらず、複数人から告白されてたのに」


「まぁ……うん……そっすね…………」


「美紅ちゃんみたいな髪型の人が横通るたび、
すごい勢いで振り返ったりしてたし」


「…………タクマ。
そんなん、ぜっっっっったい言うたらあかんで。
美紅(本人)に」


「いや、言えないよ。逆に。
あ、でも。
『圭さんが結婚するって聞いて、美紅ちゃんが心配だったから帰ってきたみたいだよ』くらいの話はセーフ?」


「紛うことなきアウトやろ」


「いやいや。一番肝心な、
『本当はただ、美紅ちゃんのいない生活に耐えられなくなったから』を隠してあげてるんだからイイじゃん」


「……そんなんバレたら、この世の終わりや」


「素直になる気ある?」


「いやまぁ……
無理せず、ぼちぼち、自分のペースで……」


「もー。そんなんじゃ、50年後も現状維持だよ。
あーあ。コッチ帰ってきた時は、いよいよ進展するかもって思ってたのになぁ」


「……なぁ、何回も聞くけどさ。
タクマは、ほんまに良かったん?」


「え、何。どの話?」


「俺と一緒に、関西離れたこと。
『行きたい企業があるから』って、同じ大学受けてたのにさぁ……」


「あぁ……いいんだよ、それは。
…………律のためなんかじゃ、ないし」


「でも。
俺が『帰る』って言うた後に、
『自分も』って言い出したやん」


「違う。
律が先に言っただけで、ボクも思ってたんだよ。
梅田ダンジョン(大阪駅周辺)の構造、覚えらんなかったから」


「え、そんだけの理由?」


「…………うん。そう。
それだけだよ、律」


「はぁー……あかん。もう、なんも考えられん。
とりあえず今日は、浴びるほど飲んでやる」


「えー。介抱係にもなりたくナイんだけど。
ほどほどにしてよね」


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