喧嘩するけど、君がいい
部屋、友達
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「お邪魔します」
「え。改まってどーしたん、タクマ。
そんなん言うたことなかったやん」
「いや、流石に寮の部屋とは違うからね。感覚が。
あ、買ってきたよ。こっちが律の分の弁当ね」
「ありがと」
「それで?どうだったの、先週」
「どう、とは」
「え、初めて家に呼んだんでしょ?美紅ちゃん。
何か、トンデモナイコト起きた?」
「そらもう。"大乱闘"やったで」
「え……マジ?」
「うん。スカッとしたいとかで、強キャラばっか使われるし。ほんで、いつの間にかコンボ覚えてきとってさぁ。
1回掴まれたら、何もできずにそのまま空へ……」
「あ……はい。
ゲームね。うん。激しく健全だね」
「起きてるわけナイやろ。
……不健全なことなんて」
「律くん、ヘタレだもんねぇ」
「好き勝手言うよなぁ……ほんま」
「あれ……ねぇ、律。
この貝殻、飾ることにしたの?
寮の時は、大事そうに引き出しに隠してたじゃん」
「いや、しまってただけ。
君ら、暴れ回って壊しそうやったから」
「人聞き悪いなぁ」
「事実やろ」
「美紅ちゃん、何か言ってた?コレ見た時」
「……『乙女趣味?』って聞かれた」
「草」
「笑い事ちゃうわ」
「なんか……どこまでも不憫だね、律って。
もはやさ、どっかに展示する?
[あの日、渡さなかった貝殻]ってタイトルで」
「どこにやねん。
せめて、"渡せなかった"にしてよ」
「美紅ちゃんは、どうして覚えてないのかな。
[小学生3人だけで海まで行った]ってだけでも、結構大きなエピソードじゃない?」
「いや、その事は覚えてる。
……圭兄を好きになったキッカケやし。
けど、何をしに行ったかは忘れてるみたいやな」
「あ、そーなんだ……って、それこそなんで??」
「圭兄が、"無責任なマジナイ"かけたからやろ。
『忘れちゃえ〜』とかってさ」
「いやいや。それで忘れられるものなの?
————"自分のお父さんの不倫現場"、目撃した事」
「いや、美紅が忘れたのは"その事"やなくて…………って、タクマ?
……その話してもーたこと、記憶から消してって言うたやん」
「ムリだよ、そんなん。諦めてよ。
酔った勢いでペラっと漏らした律が悪いじゃん。
ボクは『ほどほどにしな』って言ったのにさぁ」
「うーん。ずっと黙ってきたのになぁ。
どう考えても人為的ミスの情報漏洩事案よなぁ……一番怒られるヤツ」
「あ、よっぽど美味しかったってこと?
コッチで飲む、ボクとのお酒」
「や、こないだのは完全にヤケ酒やけど。
ギリ[アルコールの不正アクセス]とかで落とせるかなぁ……」
「…………自発的に受け入れといて『不正』が通るわけなくない?
ねぇ、反省文と再発防止策は後でいいからさ。
もうこの際、全部教えてよ」
「何を」
「なんで美紅ちゃんに渡せなかったの、貝殻」
「それは……言えんけど…………」
「うん。言いにくいことなのは、十分理解してるけどさ。
今後、キミの相談に乗る上でも、
これまでの全部を知っておきたいんだけど」
「いやー………………でも…………」
「無意識に2人を傷付けるような発言、しないようにしたいしさ」
「うーん……………………」
「……やっぱ、建前じゃダメか。
卑怯かもしれないけど、本音を言うとさぁ……。
"すごーく気になることを、チョイ出しされたボクの身になってみて"って話だよ」
「う………まぁそうか………そうよなぁ…………。
…………………………絶対言うなよ、誰にも」
「誰に向かって言ってるの?
キミの信頼に応えられる人材だよ、ボクは」
「………………はぁ。
そやなぁ……まずは…………
……この貝にはさ、"ジンクス"があんねんて」
「じんくす」
「そう……
『欠けてない"桜貝"を贈ると、2人は永遠に仲良しでいられる』ってやつ」
「何それ。聞いたコトないんだけど」
「そっかぁ。
やっぱ、俺らの小学校で流行っただけか。
誰かが勝手に言い始めた、ただのデタラメやったんやろなぁ……」
「まぁ、そんなもんだろうね。
"仲良し"って部分が、実に小学生らしいよ」
「そのくせ、探すのほんまムズイねんで。
片側1枚のみとか、穴あきのんなら、すぐ見つかるんやけど」
「じゃあ、すっごい貴重なんだね。
こんな綺麗に、2枚くっついてるの」
「そやで」
「んで?そのジンクスが?」
「うん……
……美紅の両親、昔から夫婦仲が良くなくて。
多分……親父さん、"モラハラ"ってやつでさぁ……。
憔悴したおばさんが、美紅に向かって毎日……口癖のように愚痴ってたらしい。
『美紅がいるから、離婚できない』って」
「あ、想像してたより重いなコレ」
「美紅は、幼心にも"2人は別れた方がいい"って気付いてたけど……
でも、どうしても"3人で幸せに暮らしたい"って気持ちを諦められずに、
親父さんの機嫌を取ったり、おばさんを宥めたりして……なんとか繋ぎ止めようとしてたみたいやわ」
「そっか……すごい葛藤があっただろうね……」
「……そやろうな。
当時の俺は、"明るく元気で口煩い奴"としか見れてなかったんやけど……。
今考えたら……頑張って、そう振る舞ってたんやろなぁ。
多分、"しっかりしなきゃ"とかって自分に言い聞かせながらさ」
「あぁ……自分の弱い所、人に見せたがらないもんね。美紅ちゃんって」
「そーそー。
でも……親父さんの不倫現場を目撃してもーて……」
「いやー……追い討ちだよ、それ」
「そんなこと、おばさんに言えるわけもなくて。
1人で抱え込もうとする美紅の顔は、日に日に曇ってた……らしい。
…………俺は口喧嘩してばっかで、気付いてやれんかったけど」
「じゃあ、圭さんが?」
「……そう。
今までの話を、なんとか聞き出した圭兄が『桜貝のジンクスに賭けよう』って提案したんよな」
「あー……美紅ちゃんのお母さんから、お父さんに贈ってもらおうとしたってこと?」
「正解。
そのために必死に探したけど、全然見つからんくて。
夜も近付いて、諦めそうになった時……やっと俺がコレを見つけてさ。
けど……ほぼ同時に、美紅が転んで……」
「なるほど……そこで例の"オマジナイ"か」
「……うん。
そしたらさ……。
美紅がイキナリ『貝殻、もう要らない』って言い出してんよなぁ」
「え、急になんで…………あ………もしかして……?
その時の美紅ちゃんが、"本当に忘れた事"って……」
「"3人で幸せに暮らしたい"っていう自分の願望……やろなぁ……。
"忘れた"というより、"手放した"が近いか」
「……………その後、どうなったの?」
「……何ヶ月か経った後、
美紅の苗字が、"桜井"から今の"高梨"に変わったよ」
「……そっかぁ。
でもさ……律、どうして言わなかったの?貝殻見つけたこと。
一応、渡してみれば良かったのに」
「うーん……そうよなぁ……でも……。
ずっと張り詰めた表情で、必死に海岸を探し回ってた美紅が……圭兄の言葉を聞いた途端、あまりにもスッキリした顔で笑うからさ。
……なんとなく、渡しちゃいけない気がして」
「あー……。
美紅ちゃんに、もう悩んだり苦しんだりして欲しくなかったんだね……切ないなぁ」
「それに、情けない話やけどさ……
あん時の俺、ただただ泣く事しかできんかったんよな」
「え、律が泣いたの?」
「……うん。
当時は自分が泣いてる理由、分かってなかったけど。
多分……必死に痛みに耐えようとする美紅の顔がツラかったのと……
美紅が苦しんでる事に気付けんかった自分への、悔しさもあったんやろなぁ」
「そう……なるほどねぇ……。
そんな中、圭さんに向けて恋する女の子の顔をした美紅ちゃんに、律の方が心を奪われちゃったワケか。
ほんと、噛み合わないもんだね〜」
「……余計なこと言わんでええねん。
はい、これで全部話したで。流石にもうええやろ。
弁当、可哀想なくらい冷めてるやん」
「ほんと、気の毒な律。
温めてあげよーか、ボクが」
「いや、ええわ。
お前にやらしたら、それこそトンデモナイコトになる」
「よくわかってんじゃん」
「ええから早く。
タクマの分も貸してや、弁当。チンするから」
「え。ボク、もう食べたよ?ホラ」
「…………いつの間に?」
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