喧嘩するけど、君がいい
カフェ、幼馴染
--・ ・--・ ・・-・- ・・・-
「ねぇ、律。
私のケーキ、一口食べたくない?」
「……はいはい。好きなだけどーぞ」
「え、なんでわかったの。
律のモンブラン狙ってるコト」
「美紅の魂胆なんて、もはや常識やん」
「えへ。じゃあ、ありがたく。
いただきまーす…………美味っ」
「そらよかったなぁ…………太るで」
「う、うるさいなぁ。余計なお世話だよ。
『太っても美紅ちゃんは可愛いよ』くらい言えないの?」
「……ソレ言ってる脳内イメージ図、俺じゃないやろ」
「あ、バレたかぁ」
「……………バレバレすぎて、つまらんわぁ」
「私のショートケーキは?食べる?」
「いや、いい。
どうせ"明日"も食べることになるやろうし……あ」
「あ」
「……………………」
「そっか…………うん、そうだね。
………………ついに、明日かぁ」
「あー……。
話に出してもーたから、ついでに聞くけど……
明日……式場までの行き方、わかるん?」
「うん。タクマくんに連れてってもらうから。大丈夫」
「……………ほんまに"大丈夫"?」
「うん……多分」
「そっか……」
「ねぇ。ありがとね、律」
「……なに、改まって」
「今まで、あえて話題にするの避けてくれてたんでしょ。
……圭くんが結婚すること」
「う……いや別に……そんなんやないけど……」
「結婚式なんてさ、所詮"形式"だよね」
「……え?」
「……そう、ただの形だけ。
2人はもう、とっくに……"家族"なんだもんね。
たとえ明日、嵐がきても、雷が落ちても、槍が降っても、その事実は変わらなくって……。
私なんかには到底手の届かないところに、2人はいるんだね。あ……もうすぐ"3人"になるか」
「………………」
「すごいでしょ。
私……こんなに理解してるんだよ」
「……うん」
「でも……幸せそうな2人の姿を目の前にした時……私は、どんなことを思うのかなぁ。
ちゃんと…………終わらせられるのかな」
「…………………ごめん。美紅。
上手い言葉、見つからん」
「あ、ううん……私こそ、ごめん。
困るよね、こんなこと言われても。
さ、早く食べちゃお。お店に迷惑になっちゃう」
「あ……あのさ……」
「んー?」
「明日はさ…………みんな泣いてるはずやで」
「へ?」
「あの……ほら。
木を隠すなら森の中……とか言うやん。
明日は……"雷"や"槍"の代わりに、たくさんの"涙"が降るはずやから……」
「……から?」
「だから……その…………
たくさんの涙の中に、どんな"理由"が紛れても……
…………例え、それが"祝福"とは違っても。
みんな、同じ涙に見えるから大丈夫……ってこと」
「えーと…………?
"お祝いの涙で溢れる中、私は悔し涙を流しとけ"って言いたいの?」
「いや、そんなド畜生なこと言わんわ。
そうやなくて…………
"自分自身のために泣いてもバレへんよ"……って言いたかったの」
「え………………どんなアドバイス?それ」
「うっ……うるさいな……。
……どうせ俺には向いてないですよ、慰め役」
「………………」
「………………」
「……………ふっ」
「……?」
「ふ…………ふふ……あはっ…………あはははははっ」
「笑っ……!?
そ、そんな変なことは言うてないやろ!」
「いやだって……ふふ………『次に進め』とか『前を向け』とか、そーいうこと言われるのかなって思ってたら………バレないって………あはははっ」
「……そんなん、"美紅がどうしたいか"の話やろ。周りが言うことやないやん」
「えー、すごい。よくわかってんじゃん、律くん。
……ふふっ」
「くそ……慣れへんことするんやなかった……。
ちょっとでも美紅の気ぃが楽になればって思っただけやのに……」
「はー………ありがと、律。元気出た」
「……もう絶対なんも言わん。今後。二度と」
「え、ごめんって。嬉しかったよ?」
「嘘つけ」
「本当だって!
おかげでさ……ちゃんと、向き合えそうだよ」
「……………………あっそ」
「え〜〜〜、怒ってんじゃん。
笑っちゃってごめんね?許してよ」
「……………怒らんよ、俺。
美紅が…………どんな選択するとしても」
「え………………」
「…………………」
「えへへ……そっかぁ………うん、ありがと。
…………ねぇ、律?」
「……うん?」
「私の中で、答えが見つかったらさぁ……
またこうして、話聞いてくれる?」
「…………いつでもどうぞ」
——————→→→→←——————