喧嘩するけど、君がいい

式場ロビー、友達



-・ ・・・- --・ ・--・ 


「2人ともお待たせ……って、あれ。タクマだけ?」


「おかえり、律。
ついさっき、美紅ちゃんもお手洗い行ったよ。入れ違ったね」


「そっか。女子の方は結構混んでたから、もうちょいかかるやろなー」


「やー、にしてもさぁ……良い式だったね」


「なー。なんか……かっこよかったなぁ、圭兄」


「あ、久しぶりに見た。律の寂しそうな顔」


「え……寂しそう?てか、久しぶりって何」


「関西居た時は、頻繁にしてたじゃん。その顔」


「え。
し、してへんよ、そんなん」


「してたしてた。
ケータイの通知見つめながら、とか。
ゲームしながら、とか。
あの貝殻眺めながら……とかさ。
誰のこと考えてるか、一目瞭然だったよね」


「…………恥ず」


「美紅ちゃん、いつも通り元気そう……に見えるね。
決着つけられたかなぁ……。
自分自身が納得できる答え、見つかってるといいんだけど」


「そーやなぁ……」


「……ねぇ。
律はさ……ほんとに思わないの?
美紅ちゃんに、"自分の気持ち伝えたい"って」


「えぇ……?
うーん……どう、やろ……。
正直、あんまりよくわからへんなぁ。
長年ずっと平行線やったし……」


「ふむ」


「今度こそ、見逃さないようにしたい……とは、思ったりするんやけど………。
美紅が、悲しんでる時とか、苦しい時とか……そういうの、全部…………って。急に何の話させるん」


「んー。
律は、もっと自分のこと大事にしてもいいと思うけどなぁ」


「え、自分って……俺自身ってこと?」


「そう。だってさぁ……
美紅ちゃんのことを第一に考えすぎて、本音が言えないんでしょ?」


「え」


「例えば……『言っても困らせるだけ』とか、『美紅ちゃんにとって自分の気持ちは邪魔なんだ』とか、勝手に考えてない?」


「な、なんでわかんの」


「しかも。
そーやって気を揉んでる自分に気付かれたくなくて、
悪態ついちゃったりするんでしょ?」


「そ……そうかも……」


「"無欲で安全圏な人"で終わりたいなら、このままでいいけどさー。どうなの、それは」


「それは……嫌やけど……でも現状しゃーないし……って、突然どうしたん。タクマ」


「いや……なんとなくさ、
2人にとって、今日が転機になる気がするんだよね。
そんな時、ボクに出来る事を考えた結果がコレ」


「??」


「……まあ、とにかく。
今は『好き』が言えないなら、
美紅ちゃんに、自分の要望を伝えるところから始めてみれば?
『〜したい』とか『〜してほしい』って感じでさ」


「ええー……そんなことして嫌われたらどうするん」


「律が多少ワガママになったところで、嫌な気分にならない……というか、むしろ嬉しいハズだよ」


「そうかなぁ……いまいち実感わかんけど」


「まぁ、大丈夫だって。
もしもダメだった時は慰めてあげるし。
……ボクの左側が、まだ空いてればね」


「……頼もしいんか無責任なんか、よう分からんな。ソレ」


「いやいや、間違いなく前者でしょ。
こんなに律想いな人、中々いないよ?」


「はは、それはそう」


「でしょ」


「俺さぁ……まだマシやったと思うで」


「え、何が?」


関西(アッチ)おったとき、確かに寂しく感じることもあったかもしれんけどさ。
でも……忘れられてる時間もあったと思う」


「……なんで?」


「そら勿論、タクマがおってくれたからやん」


「え」


「タクマとはさ、"波長が合う"っていうんかな?
『これ言っても大丈夫かなー』とか『伝わってるかなー』とか、そういう細かいこと考えんでいいんよなぁ。
自分の脳内を、そのまま見せれるっていう感じ。
それが、すーげぇラクで楽しい」


「…………そうなんだ」


「あと、タクマって人のことよく見てるよなぁ。
たまに、自分の事やのに後手になったりするもん。
例えばさぁ……タクマが何も言わずにスッって帰った後で『あ。俺今、1人になりたかったんや』って気付かされる、とかな」


「……そういう時の律、同じ曲をループでかけ始めるんだもん。それが合図なんだよ」


「え。俺、そんなことしてる?ヤバい奴なのでは?」


「まぁね。いーけどね、わかりやすくて」


「あ、否定してくれへんのや……まぁ、とにかく。
タクマがおると安心するというか……なんて言うんやろ……」


「………………」


「うーん……うまく言い表せへんけど……。
"普通の友達"とはちょっと違う……"特別"な感じがあるんよなぁ……」


「……………………とく、べつ……」


「なーんて、俺の勝手な押し付けやけど……って、うわ!?
たっ…………タクマ?どーした……?」


「え……?」


「な………………なんで泣いてんの」


「………………あ」


「ごめん……なんか悪いこと言うてもた?」


「ちが…………い……いいんだよ、これは。
…………律のせいじゃ、ないし。
えっと……そう。コンタクト、ズレただけ」


「あ、マジ?
いつまでも慣れへんのやなぁ、コンタクト。
えー、どーしよ。鏡持ってないわ」


「……大丈夫。スマホカメラで……うん、直った。
って、あれ?ねぇ、美紅ちゃんからメッセージ来てたみたい。4分前」


「え、なんて?」


「えっと……。
あ……『ごめん、先帰る』って……」


「え………………すまん、タクマ。1人で帰れる?」


「うん。
ボクのことはいいからさ、早く追いかけなよ」


「ありがとう」


「……あ、でも。一つだけ」


「ん?」


「"ボクにとって……も"…………いや、やっぱりいいや。
ごめん。行って」


「え。
と、とりあえず来週飲み行こ。また連絡する」


「うん、気をつけてね」


「おー、タクマもな!」


「…………うん。
やっぱ、キミと同じようには言えないよ。
『ボクにとっても、特別だよ』……なんて」


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