異世界もふもふ死にかけライフ☆異世界転移して毛玉な呪いにかけられたら、凶相騎士団長様に拾われました。
54.青天の霹靂?
その知らせが飛び込んできたのは、朝食を終えてすぐのことだった。
バァンッ、と高らかに食堂の扉が開け放たれ、血相を変えたキースさんが転がり込んでくる。
テーブルではちょうどヴィクターが、食事で乱れた私の毛並みを整えてくれている最中だった。ヴィクターの大きな手の隙間から、私はきょとんと彼を振り返る。
「し、しししししシーナ・ルー様ぁぁぁぁ! ついでに過保護で狭量で意外にも独占欲の強かったヴィクター殿下ァーーーッ!!」
『…………』
私とヴィクターは無言で顔を見合わせた。
ヴィクターは静かに立ち上がると、ぜいぜいと這いつくばるキースさんにゲンコツを落とした。キースさんが完全に床に伸びてしまう。って、こらこら!
「ぱぇぱぁ、ぷうぅ〜っ」
(もおヴィクター、暴力は駄目だってば!)
ぷんぷん叱りつければ、ヴィクターはうっと詰まった。仕方なさそうに手を差し伸べ、倒れたキースさんを荒っぽく起こしてあげる。
「うぅ、ありがとうございますシーナ・ルー様……」
「礼は俺に対してではないのか」
「そもそも殴ったのはアナタでしょうがぁっ!?」
わあわあ言い争う二人を、私は微笑ましく見守った。うんうん、朝からにぎやかだねぇ。あ、ロッテンマイヤーさん。今のうちに今日のおやつのご準備お願いします。
ぱたぱたしっぽを振っていると、突然キースさんが我に返ったみたいに口をつぐんだ。ヴィクターを押しのけ、こちらに向かって走ってくる。
「シーナ・ルー様っ。大変、大変なのです! と、とにかく詳しい話は後にして、どうか今すぐこの屋敷から脱出を――」
「旦那様。月の聖堂より、神官様方がいらしておりますが……」
食堂の入口から、使用人さんがためらいがちに声を掛けた。眉を下げたその表情は、なんだか途方に暮れているように見える。
「聖堂の神官だと?」
ヴィクターがあからさまに嫌な顔をした。
キースさんが一気に青くなり、「失礼!」と叫んで私を抱き上げる。
「ぱうぅっ?」
「シーナ・ルー様、この場はヴィクター殿下にお任せして逃げましょう! 我ら二人で愛の逃避行です、雲隠れです! さあさあ急いでおやつを持って!」
ええっ?
そ、それってもしや駆け落ち的な!?
おろおろしながらもロッテンマイヤーさんに手を伸ばし、可愛らしい小袋を受け取った。ねえ、大丈夫? 食料これだけで足りる?
腕を振り上げ、キースさんが勇ましく駆け出した。
「さあっ、それではいざ出発――ぐえぇッ!?」
首根っこを引っつかまれ、急停止。もちろん止めたのはヴィクターだ。
世にも凶悪な顔をして、ゴゴゴゴゴ、と効果音が聞こえてきそうなほど怒っている。ひいいいいっ。
キースさんもごくりと喉仏を上下させた。
「ヴィ、ヴィクター殿下? み、味方同士で争っている場合ではないのですよ。ともかく殿下は、神官長様方を足止めして――」
「ああッ!? こっ困ります! まだ旦那様からご入室の許可がいただけておりませんっ!」
使用人さんの焦った声が聞こえ、はっと振り向く。使用人さんを突き飛ばすようにして、裾の長い神官服を来た一群がわらわらと中に入ってきた。
「……っ。神官長様……!」
「――キース神官。ヴィクター殿下との個人的な交友は咎めぬが、聖堂の規律を乱すのは許されざる行為だ。我らが参上する前に、随分と勝手をしてくれたものだな」
冷たい一瞥を向けられ、キースさんは苦しげに眉根を寄せた。硬直する私をヴィクターへと託し、深々と頭を垂れる。
「大変申し訳、ございませんでした。……ですが、シーナ・ルー様はっ」
「黙れ。貴様の意見など求めておらぬ。これは他ならぬ、月の女神ルーナ様の御意思であるのだから」
(ルーナさん?)
長いお耳がぴくっと反応した。
息を詰める私を見て、神官長はここに来て初めて頬をゆるめる。後ろに神官たちを従えて、うやうやしくひざまずいた。
「シーナ・ルー様。我ら神官一同、心より寿ぎ申し上げます。今朝方、月の聖堂に神託が下されたのでございます」
(神託? ルーナさんの?)
「ぱっ……」
「どういう事だ」
口を開こうとした私を包み込み、ヴィクターが低い声で尋ねる。どことなく爆発寸前な響きを感じ取って、私は小さく身を震わせた。
しかし神官長さんはどこ吹く風と、皮肉げに唇を歪める。「ああ、いたのか」と言わんばかりに、蔑みの視線をヴィクターに向けた。
「どうぞ貴方様も、庇護者としてお喜びくださりませ、ヴィクター殿下。数百年に一度選ばれし『月の巫女』。――今代の月の巫女様に、こちらの聖獣シーナ・ルー様が指名されたのですからなっ!!」
『…………』
なんですと?
バァンッ、と高らかに食堂の扉が開け放たれ、血相を変えたキースさんが転がり込んでくる。
テーブルではちょうどヴィクターが、食事で乱れた私の毛並みを整えてくれている最中だった。ヴィクターの大きな手の隙間から、私はきょとんと彼を振り返る。
「し、しししししシーナ・ルー様ぁぁぁぁ! ついでに過保護で狭量で意外にも独占欲の強かったヴィクター殿下ァーーーッ!!」
『…………』
私とヴィクターは無言で顔を見合わせた。
ヴィクターは静かに立ち上がると、ぜいぜいと這いつくばるキースさんにゲンコツを落とした。キースさんが完全に床に伸びてしまう。って、こらこら!
「ぱぇぱぁ、ぷうぅ〜っ」
(もおヴィクター、暴力は駄目だってば!)
ぷんぷん叱りつければ、ヴィクターはうっと詰まった。仕方なさそうに手を差し伸べ、倒れたキースさんを荒っぽく起こしてあげる。
「うぅ、ありがとうございますシーナ・ルー様……」
「礼は俺に対してではないのか」
「そもそも殴ったのはアナタでしょうがぁっ!?」
わあわあ言い争う二人を、私は微笑ましく見守った。うんうん、朝からにぎやかだねぇ。あ、ロッテンマイヤーさん。今のうちに今日のおやつのご準備お願いします。
ぱたぱたしっぽを振っていると、突然キースさんが我に返ったみたいに口をつぐんだ。ヴィクターを押しのけ、こちらに向かって走ってくる。
「シーナ・ルー様っ。大変、大変なのです! と、とにかく詳しい話は後にして、どうか今すぐこの屋敷から脱出を――」
「旦那様。月の聖堂より、神官様方がいらしておりますが……」
食堂の入口から、使用人さんがためらいがちに声を掛けた。眉を下げたその表情は、なんだか途方に暮れているように見える。
「聖堂の神官だと?」
ヴィクターがあからさまに嫌な顔をした。
キースさんが一気に青くなり、「失礼!」と叫んで私を抱き上げる。
「ぱうぅっ?」
「シーナ・ルー様、この場はヴィクター殿下にお任せして逃げましょう! 我ら二人で愛の逃避行です、雲隠れです! さあさあ急いでおやつを持って!」
ええっ?
そ、それってもしや駆け落ち的な!?
おろおろしながらもロッテンマイヤーさんに手を伸ばし、可愛らしい小袋を受け取った。ねえ、大丈夫? 食料これだけで足りる?
腕を振り上げ、キースさんが勇ましく駆け出した。
「さあっ、それではいざ出発――ぐえぇッ!?」
首根っこを引っつかまれ、急停止。もちろん止めたのはヴィクターだ。
世にも凶悪な顔をして、ゴゴゴゴゴ、と効果音が聞こえてきそうなほど怒っている。ひいいいいっ。
キースさんもごくりと喉仏を上下させた。
「ヴィ、ヴィクター殿下? み、味方同士で争っている場合ではないのですよ。ともかく殿下は、神官長様方を足止めして――」
「ああッ!? こっ困ります! まだ旦那様からご入室の許可がいただけておりませんっ!」
使用人さんの焦った声が聞こえ、はっと振り向く。使用人さんを突き飛ばすようにして、裾の長い神官服を来た一群がわらわらと中に入ってきた。
「……っ。神官長様……!」
「――キース神官。ヴィクター殿下との個人的な交友は咎めぬが、聖堂の規律を乱すのは許されざる行為だ。我らが参上する前に、随分と勝手をしてくれたものだな」
冷たい一瞥を向けられ、キースさんは苦しげに眉根を寄せた。硬直する私をヴィクターへと託し、深々と頭を垂れる。
「大変申し訳、ございませんでした。……ですが、シーナ・ルー様はっ」
「黙れ。貴様の意見など求めておらぬ。これは他ならぬ、月の女神ルーナ様の御意思であるのだから」
(ルーナさん?)
長いお耳がぴくっと反応した。
息を詰める私を見て、神官長はここに来て初めて頬をゆるめる。後ろに神官たちを従えて、うやうやしくひざまずいた。
「シーナ・ルー様。我ら神官一同、心より寿ぎ申し上げます。今朝方、月の聖堂に神託が下されたのでございます」
(神託? ルーナさんの?)
「ぱっ……」
「どういう事だ」
口を開こうとした私を包み込み、ヴィクターが低い声で尋ねる。どことなく爆発寸前な響きを感じ取って、私は小さく身を震わせた。
しかし神官長さんはどこ吹く風と、皮肉げに唇を歪める。「ああ、いたのか」と言わんばかりに、蔑みの視線をヴィクターに向けた。
「どうぞ貴方様も、庇護者としてお喜びくださりませ、ヴィクター殿下。数百年に一度選ばれし『月の巫女』。――今代の月の巫女様に、こちらの聖獣シーナ・ルー様が指名されたのですからなっ!!」
『…………』
なんですと?