異世界もふもふ死にかけライフ☆異世界転移して毛玉な呪いにかけられたら、凶相騎士団長様に拾われました。

80.王都の戦い!

 キースさんの公開ラブレターのような奇跡(キセキ)のお陰か、いい感じに肩から力が抜けた。
 それは他の団員さんたちも同じだったようで、顔には笑みすら浮かび出した。「よおし、行くぞっ!」と威勢よく互いを鼓舞し合う。

(あっ……!)

 旋回する魔獣の更に上空、明るみ出した空を縫うように、不意に金色に輝く糸が出現した。どうやら結界の修復が始まったらしい。

 糸はうねり、複雑に絡み合い、網目状に広がっていく。パチパチと線香花火のような儚い火花が散って、私は思わず息を呑んだ。

(きれい……)

 魔獣たちはと見ると、退路が塞がれかけているというのに気にした様子など全くなかった。ひたすらにリックくんだけを狙い、執拗に攻撃を続ける。

「ああもう、いっそ退却してくれたら楽なのにな! このままだと奴ら、結界の中に閉じ込められちまう!」

「一体ずつ確実に駆除するしかなかろう。いいか、次に奴らが降下したタイミングで――」

(……火花……)

 ヴィクターとカイルさんが戦略を練るのをぼんやりと聞きながら、私は金の網を見つめ続ける。
 パチパチ、パチパチ。あの火花がもっと大きければいいのに。頭の片隅で考える。

 そう、もっともっと――……

「――ぱえっ!!」

 ぱっと目を見開き、大声で鳴く。
 その瞬間、金の網目の隙間にバチッと光の筋が走った。


 ――ドォォォォォンッ!!


「なっ……!?」

 一拍置いて、金色の雷が魔獣の上に落ちる。
 直撃された魔獣は叫び声すら上げず、一直線に地面へと落下した。よろめきながら起き上がろうとしたのを、ヴィクターが間髪入れずに剣で仕留める。

「シーナ! お前がやったのか!?」

「ぱ、ぱえ……?」

 たぶん、と曖昧に返事をすると、ヴィクターは考える顔つきになった。

「……よし。シーナ、今の奇跡(キセキ)を乱発できそうか? もっと威力の低い、小さな雷でも構わん」

 う、うん。
 小さな雷ならできる、かなぁ……?

 戸惑いながらもこくこくと何度も頷く。
 正直、今と同じ規模の雷を使うのは難しそうだった。
 自分の放った魔法だというのに、激しい音と光が怖すぎた。ふるふる震える私に苦笑して、ヴィクターがポケットの上からぽんと撫でてくれる。

「頼む。地面にさえ落としてもらえれば、後は俺達に任せろ」

「ぱ、ぱうっ」

 うん、了解っ!

 ぽふっと頬を叩いて気合いを入れ、怒りのうなり声を上げる魔獣たちを見上げる。
 どうやら今の攻撃で、彼らの標的はリックくんからヴィクターに移ったらしい。殺気立った目をヴィクターに向け、頭をグッと低くくして降下の体勢を取る。

 ヴィクターが大剣を正眼に構えた。

「シーナ。自分から降りてくる奴には雷は必要ない。上空に留まる奴を狙うんだ」

「ぱえっ」

「総員はシーナに落とされた魔獣を狙え。リックの護りもまだ薄くするなよ」

『おうっ!!』

 カイルさんや団員さんたちもきびきびと動き出す。
 私はすうっと深く息を吸い、神経を研ぎ澄ませた。上空を旋回し様子見をする魔獣の上に、バチッと眩しい光が弾ける。

『――グガッ!?』

 雷が当たって魔獣が姿勢を崩した。必死に翼をはためかせるが、立て直すことができずに真っ逆さまに落ちてくる。

「はッ!!」

 すかさずカイルさんが襲いかかった。
 首の頸動脈を断ち切り、緑色の血が勢いよく――……って、イカンイカン。

 気が遠くなりかけたので、慌てて意識を上空に戻した。動揺する魔獣たちに、次々と雷の雨を降らす。

 雷に当たって落ちる魔獣、雷を避けようとしてよろめく魔獣、ヴィクターめがけて降下してくる魔獣――人間と魔獣が入り乱れ、激しい戦闘を繰り広げる。

 けれど、人間(こちら)側が圧倒的に優勢だった。
 魔獣は地上だけでなく空の雷も注意しなければならない。それに対して騎士団は、奇跡(キセキ)の後押しもあって意気軒昂に剣を振るい続ける。

 気がつけばあっという間に、魔獣は残すところあと一体になっていた。

『グッ、グウゥッ!』

 最後の一体が、自暴自棄になったようにヴィクターに突っ込んでくる。ヴィクターは冷静に大剣を構えた。

「カイル、手は出すなよ。――シーナ!」

 はいな!

 以心伝心、私はヴィクターの大剣をキッと睨みつける。その瞬間、ヴィクターの大剣が炎を噴出させた。

 魔獣が慌てて急停止しようとするが、もう遅すぎた。

「これで、終わりだっ!」

 ヴィクターが大剣を力強く振り下ろす。

 火の粉が散らしながら魔獣の首が、そして少し遅れて首を失った胴体が地面に落ちた。巨大な翼がもがくように数回はためき、やがて完全に動きを止める。

 しんと静寂が支配して、それからわっと歓声が弾けた。
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