関係を終わらせる勢いで留学して数年後、犬猿の仲の狼王子がおかしいことになっている
 両親が呼び戻したのも、そろそろ縁談関係で動きがあるのではないかと勘繰ったからだ。カディオはそこまで体調は悪くなさそうだから、恐らくついでの用件だったのかもしれない。

 いまだに、カディオはとくに話を振ってこない。
 どうして彼と向き合っているのか、シェスティは分からなくなってきた。

「先にお帰りになられますか?」

 公爵令嬢として、王子へ言葉をかけた。

 カディオが、ピクッと肩を揺らす。

(うん? 私相手にそんな緊張した態度を取るなんて、やっぱり本調子ではないみたい)

 シェスティは立ち上がった。

「お見送りいたしますわ、殿下――」

 と言って出入り口を手で示した瞬間、シェスティは目の前に彼が現れて驚いた。

 いや、ものすごい速さで移動してきたのだ。

 カディオがシェスティの持ち上がった手を掴んだ。大きな手で、ぎゅっと握られる。けれど痛くないようにきちんと配慮して。

「カディオだ」

 言われた際、あまりにも近くてシェスティはのけそげる。
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