関係を終わらせる勢いで留学して数年後、犬猿の仲の狼王子がおかしいことになっている
(もう泣き顔だけど)

 と思っていると、兄の声が近付いてくるのが聞こえた。

「あいつが帰ってから早速騒がしいな」

 間もなく兄が、ひょこっと蔵書室の扉から顔を覗かせる。
 どうやら執事に『どうにかしてください』と引っ張ってこられたらしい。袖を彼に掴まれている。

「シェスティ、もう十八歳なんだから、さすがに書架の上まで覗き込むのはやめよう……」
 惨状を見るなり、兄が疲れたような表情を浮かべた。シェスティと同じ金髪は後ろに撫で付けられている。

「おかえりなさい。商談は無事にいきそう?」
「まぁな。お前の助言のおかげで、意外とあっさりまとまった」
「そうでしょ? あの家が言っているアルデー産のことなら、目的は別にあると思ったのよ」
「それで? 何をしてるんだ?」
「お兄様の隠し本もあるかもしれないと思って」
「隠すものは何もないっ」

 兄が冷静も吹き飛んだ様子で叫んだ。

「ほら、以前、筋トレの本を――」
「シェスティ!」

 黒歴史を掘り返されたと言わんばかりに、今度は兄が涙目になる。
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