関係を終わらせる勢いで留学して数年後、犬猿の仲の狼王子がおかしいことになっている
(そもそも外交を目的としたパーティーで、私が隣にいるの、おかしくない?)

 いや、おかしい。絶対にそうだ。

「おいシェスティ、聞いている?」
「聞こえていません」
「いや絶対に聞こえているだろうっ。お前、どうした!?」

 どうした、というのはこっちの台詞である。

(考えてみればおかしいわ。こんな、反抗期のわんこみたいな狼王子が、今も私の隣に大人しくいるなんて)

 シェスティは今になって気付き、信じられない気持ちでカディオを見る。

 青味が混じったさらさらとした黒い髪と、同じ色の毛並みを持った狼の耳。年々大人びた雰囲気を増してくる通った鼻筋と、形のいい唇。こちらを見下ろす目は、獣の目みたいな金色だ。

 そして、彼の後ろで、大きな狼の尻尾が左右に揺れている。

「シェスティ?」

 騎士王子だとか言われてるが、こうして見てみると、なんとも呑気ではないだろうか?

(私が賢く解決してあげるわ!)

 彼が距離を置く方法を考えつきもしないなら、自分がしないと。
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