関係を終わらせる勢いで留学して数年後、犬猿の仲の狼王子がおかしいことになっている
「ただいま戻りました」

 シェスティは、三年ぶりに実家のディオラ公爵邸に入った。

 今か今かと待っていたのか、玄関ホールでハッと振り返ってきた父が、大歓迎で飛びついてきた、

「おぉっ、大きくなったね! 慎重だけでなく、髪もとても伸びたみたいだ――ふぎゅっ」
「おほほ、髪は同じ長さに整えていたつもりです」

 シェスティは、わざと持っていた鞄を父と自分の間に素早く置いた。

 バンッという衝突音を聞いて、執事は呆れていた。

 母は、顔を押さえてうめいている父を脇にどかすと、にこやかにシェスティとの再会を喜んだ。

「だいぶ性格が丸くなられたみたい……」
「それはそうですよ。シェスティが隣国に行って、我が子がいなくなってウチはどれだけ寂しかったことか」
「あれ? お兄様もまだいますよね?」

 ハンカチが目元を押さえる母に首を傾げ、シェスティはその向こうを見た。遅れて顔を出した兄が、口元を引きつらせるみたいに笑っている。

「俺はいつだって空気だよ……」
< 9 / 102 >

この作品をシェア

pagetop