ファンは恋をしないのです
1.隣の席にはご用心
「それで?結局推しを増やすことにしたの?」
「…現在フォーカクの箱推しですでに4人を担当している…のだけど、朋希くん…も、やっぱりいいんだよね…。」
「完全に落ちてるじゃん。」
「だってあんなの見せられたらさぁー!私だって普通にフォーカク最高!かっこよかったー!で帰ってくると思ってたよ!」

 里依が現在ハマっているのは、アイドル育成アプリ『スターカラット』である。高校生から大学生くらいの年齢の男の子たちのアイドルのマネージャーとしてレッスンに付き合ったり、仕事を探してきたりするゲームの中で、里依が気に入っているのが『フォーチュンカクテル』、『フォーカク』と呼ばれるユニットだ。高校生中心のユニットが多いゲームの中で、このユニットだけは全員大学生という、アプリ全体で見ると大人なユニットでもあり、曲調もラップやノリの良い曲などが多く、いわゆる王道アイドルとは少し違った雰囲気なところが気に入っている。

「フォーカク、声優さんのライブ向きのユニットだね。全員生歌、すっごくうまかったし、1日目と2日目じゃアドリブかなり違ったよね?」
「違った…2日目だったじゃん、行ったの。」
「うん。」
「1日目のライビュで観たやつより声伸びてたし、楽しそうだったよね…。フォーカク…上手かった、全部。」
「語彙失ってるじゃん。」
「ずっと頭殴られたみたいな状態なんだもん。」

 里依は再びジョッキに手を伸ばした。残念ながら全く酔えない体質のため、ただ酒の味を楽しんでいるだけで、酩酊する自分は望めない。

「なんかさ、フォーカクはある程度予想して行ったわけではないけど、…なんだろうな…絶対かっこいいパフォーマンスしてくれるだろうなとか、アドリブ色々あるだろうなとか思って行ったわけ。」
「うん。」
「それで死ぬまでには一度はフォーカクの本物見たいって思ってたからその衝撃はもちろんあったんだけど、予想して行ったからなのか結構ちゃんと鮮明に覚えてるくらいにはフォーカクだぁ!本物だぁ!みたいな感覚はちゃんとあるのね。」
「でもスモハニはノーマークだったから。」
「…そう。ノーマークだったの。可愛いだろうなとは思ってたよ。でもね、可愛いの中にかっこいいを見せられてしまったんです。」

 里依は頭を抱えた。隣からまたゴフっというむせた音が聞こえた。音のした方を見ると、雰囲気がどことなく三澄に似ているようにも見えたが、三澄がこんなところにいるはずもない。三澄祥真(みすみしょうま)は、『如月朋希』のキャラクターボイスを務める声優だ。
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