ファンは恋をしないのです
 『スモハニ』、正式名称は「スモールハニー」。高校2年生4人からなる新米ユニットだ。コンセプトは『可愛い』で、身長も低い、顔が女の子のように可愛い子たちが集まっている。『如月朋希』はその『スモハニ』のリーダーで、真面目な良い子の、いわゆる優等生タイプのキャラクターだ。ストーリー上ではずっと自信がなさそうな様子だったが、最近は少しずつリーダーとしての自信をつけ、可愛いだけではなくかっこいい側面も見せつつあるキャラクターになってきている。(ライブ後、慌てて調べた里依談)

「…可愛いだけのキャラかと思ったら、よくよくストーリーとか設定とか読んでみるとさ…最近はどうやらかっこいい路線もそこそこやってるっぽいのね。」
「逃げ場なし。」
「とどめぇー!」

 怜花にぐさっと刺されて、里依は残っていた分を飲み干した。

「ウーロンハイください。」
「はーい。いつもいい飲みっぷりですね、里依さん。怜花さんも何か一緒に頼みます?」
「私一旦あったかいお茶にしようかな。里依のペースにはついていけないんで。」
「かしこまりました。少々お待ちください。」

 店員である彼女は多分大学生のバイトなのだろう。里依たちと同じアプリをやっているからか、里依たちのことを覚え、空いているときは少しおしゃべりもしてくれる。

「…もう死ぬほど言ってるけど。」
「うん。」
「声優さんは声をあてるのが仕事だから、別に当たり前に顔が似ているはずもないし、似てなくて当然いいし、ダンスもしなくていいし、なんなら声優ライブだって出なきゃいけない義務なんかもないとは常に思ってはいるのね。」
「里依、いつも言ってるよねそれ。」

 里依は強く頷いた。声優が顔を出して行うトークやら生アフレコやらのイベントはわかる。本業の域をそこまで越えてはいないと、里依は思う。しかしライブとなるとそれは声優の本業ではない。スタジオで歌唱を収録するのと、ライブに出て生歌を披露するのとではやることはおそらく全く違うだろう。だからこそ、ライブに出ないという判断をする声優がいてもそれは当たり前の権利だと思っている。だからこそ、ライブに出ると決めて、極限までキャラクターを三次元に降ろしてくる声優には頭が下がる。そして永遠に上げられそうにない。

「…なのにさぁ、お出しされた朋希くんがあれなんだよ。こっちを見てニコってした顔とか、手を大きく振ってファンサするところとか…もうめちゃくちゃ朋希くんじゃんあんなの…。」

 ウーロンハイをぐいっといって、はぁとまた深いため息を落とす。
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