浅黄色の恋物語
 ここには「8月に死ぬからね。」って言っていたおばあちゃんが住んでます。 毎回毎回、ああだこうだって貶し合いをしてますが、、、。
それでもなぜか仲良しなんです。 嫌いなのにくっ付いてるんですよ お互いに。
 もうすぐ米寿だっていうこのおばあちゃんは兎にも角にも賑やかなんですよ。
 いつだったか、押し入れの整理をしようとして押し入れから出れなくなったことが有りましたよねえ。
ちょうど、ぼくらが訪ねた時でした。 部屋の奥から声が聞こえます。
 ドライバーがおばあちゃんを探しましてその姿に唖然、、、。
押し入れに頭から突っ込んで騒いでました。 いやいや、、、。
 近くに有るベッドを退かしてお尻からおばあちゃんを引っ張り出しましてね、あの時はみんなで大笑いしたもんです。
 ぼくらが来なかったらどうなっていたか、、、。
考えただけでも怖いですけどねえ。

 「先生、足が痛い。」 「先生、腰が痛い。」
毎回毎回、おばあちゃんの我儘に振り回されるぼくなんですけど、、、。
 でもね、ほんとににぎやかなばあちゃんですよ。 家族だったら大変だったろうなあ。
ドライバーは部屋の片隅でニヤニヤしながらぼくらを見てます。 ご苦労さん。
 もうちっと仕事が増えてくれると楽なんだけどなあ。
でもまあ前のドライバーよりいいか。 前のは変だった。
 便利屋をやってるからってぼくがマッサージをしている間も便利屋の話ばかりしてたんだもん。
挙句の果てには予約を取ったり客と盛り上がったり、、、。 やりきれなかったなあ。
(てめえ、ふざけるんじゃねえよ。 ドライバーだからっていい気になりやがって。) 信頼関係は作れなかった。
 そもそもね、「マッサージじゃ小遣いにもならないから別の仕事をしましょう。」とか「知り合いがマッサージを始めるから行かないか?」とか平気で行ってくるんだもん。
そんなのただの裏切りじゃん。 軽く聞き逃しておいたけど危なかったなあ。
 話に乗ってたら今頃はマジで地獄を見ていたかも。
考えが浅過ぎるんだよなあ。 離れて良かった。
そいつと離れるために一度仕事を辞めたんですよ。 減ってきてたしね。
 そろそろ訪問マッサージも意識を切り替える時に来ている。 古い意識でやっていると必ず飲み込まれる。
高齢者に的を絞ってるのもいい加減終わりにしなければ続かないと思う。
新規をどんどん入れていかないと仕事が続かなくなるから。
 さらにはマッサージ師 鍼灸師のグレードアップも絶対条件。
揉み慣れている人を唸らせるだけの腕を持ったマッサージ師と洗練された技術を持つ鍼灸師が必要だ。
 今の業界にはそれだけの腕を持った人が居ない。 知識馬鹿はたくさん居るけど。
嘆かわしいことに国家資格が技術をハチャメチャにしたと言ってもいい。
資質を向上させると言ったはずなのに30年で見事に崩壊しているじゃないか。
 口でマッサージは出来ないんだよ。 顔で鍼は使えないんだよ。
そんなんじゃあ30年後には完全に滅びてるな。
 まだまだ知事免許のほうが技術者は多かったよ。
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