浅黄色の恋物語
 患者さんと言ってもいろんな人が居る。 お惚気が好きな人も居るし真面目な人も居る。
賑やかなのが好きな人も居れば静かなのが好きな人も居る。
 一目見ただけでは分からないなあ。
 それはぼくだって同じこと。
秋が好きでうるさいのはあんまり好きじゃないし、どちらかと言えば静かなのが好き。
だからと言って暗いわけじゃない。 子供の頃から一人に慣れてるだけ。
 最初に好きになったのは幼稚園の保母さんだった。 ぼくは虐められっ子だったからいつも可愛がってくれていた。
他の園児が帰った後で父さんが迎えに来るまで園長も一緒になって遊んでくれてたんだよね。

 次に好きになったのは6年生の時、赴任してきた家庭科の先生だった。
年上ばかりだなあ。 意外とぼくは年上好みなんだよ。
そんな風には見えないって言われるんだけどね。
 実際に結婚していたのは七つ下の人だったし、、、。

 さあ今日も仕事に行きますよ。 朝も8時を過ぎると白衣に着替えて準備万端。
11月だからねえ。 窓を開けてみると寒い寒い。
それでね、カラーボックスに投げ込んでおいたダウンジャケットを引っ張り出してきました。
これねえ、8年前にドン・キホーテで買ったやつなの。 まだ着れるんだよ。
喉が渇いた時のためにアクエリアスも用意して、、、。 さあ出発。
 ドライバーは西山啓介君です。 軽自動車で今日も出発ですねえ。
今日は土曜日。 施設に行きましょう。
 「おはようございまーす。」 いつものように元気に入っていく。
「よろしく。」 動き回っている職員さんと軽く挨拶を交わしていざスタート。
 最初はおじいちゃんですねえ。 川嶋健司さんです。
この人は職員には怒鳴ったり切れたり行方不明になったりするらしいんだけど、ぼくにはしません。
黙って揉ませてくれてますね。 男同士だから通じる物が有るのかなあ?
なんてまあ勝手なことばかり考えてますよ。
 一人だいたい20分くらい。 そうじゃないと周り切れなくなるから。
訪問マッサージ自体が30分って決められてるからねえ。

 だからさ、マッサージ時間をうるさく気にする事業所も有るわけね。
ドアを開けたら時計をスタートさせて20分で家を出てくる事業所も有るくらいだから。
本当にね、時計を気にしながら仕事をするってこれほどやりにくい仕事も無いよ。
オーバーすれば誰かに突っ込まれるわけだし、、、。
 仕事くらいのんびりさせてほしいわ。 話だってしたいんだしさ。

 函館で最初に働いた職場は何とも言えなかったなあ。
治療院と訪問を掛け持ちでやるわけ。 出たり入ったりするわけね。
だから落ち着かないんだ 誰も。 次の仕事を気にしながらやるわけだから。
 それにさあ、朝9時スタートってことになってるんだけど、患者さんの都合から8時前に動いてたよ。
それで終わるのは5時過ぎ。 10時間も働いてたのねえ。 しかも空いてる時間には社長が「揉んでくれ。」って来る。
 昼休みは一応有るけど、午後の仕事によっては30分もゆっくり出来ないことだって有る。
それにさあ、患者さんが一緒に昼食を食べてたりするから落ち着かないよ。
時間を守らない患者さんも居たしねえ。
もっと驚いたのは同意書の管理が出来なかったことだね。
 医師から同意書を貰って初めて仕事が出来るんだ。 それには有効期間が決まっている。
その有効期間を忘れてしまってズルズルとやってしまうと保険組合とトラブるんだよね。
金を払ってるのは保険組合だからさ。
 それでね、有効期間が切れた同意書が何枚か在ったわけ。 それに驚いた社長は、、、。
 「保険組合から返済要求が来て大変なんだ。」って患者さんに言って「実費で払ってくれないか?」ってお願いしてるんだよ。
(アホか。)って思ったね。 管理してればこんなことにはならないでしょうに。
まったくもう、どうしようもない。
< 5 / 9 >

この作品をシェア

pagetop