ReTake2222回目の世界の林葉響子という世界線(裏)
2:EP13:百瀬からモモさんへ
駅で待ち合わせをしたので私は10分前に着いたが、百瀬さんはすでに来ていた。この3年弱、私が元カレに待たされ続けていたので10分前なのに……驚く。
「ごめんなさい。お待たせしちゃって」
「おお、スカート姿の林葉さんを見るのは初めてだな。可愛いですね」
「ありがとうございます。安物なんですけど、薄いピンクとフワフワ感が可愛くって買いました」
「いや、スカートが可愛いと言ったのではなく、林葉さんが可愛いと言いました」
私はドキッとした。元カレはこういうチヤホヤが一切無かった。私はあんたと呼んでいたし、あっちはお前と呼んでいた。初めて会った時からそうだ。大人の男性から、とても静かな口調で可愛いとか言われたのは、ちょっと記憶にない。満足感が高い。
「すみません。林葉さんを困らせちゃったかな。行きましょう」
百瀬さんの隣を歩いてウナギ屋さんに向かった。
スイミングクラブで働き始めてから7か月経つけれど、百瀬さんの事は何も知らなかった。歩きながら静かな口調で聞かせてくれる、百瀬さんの学生時代の話、背泳ぎでの苦労話はとても楽しかった。
百瀬さんが連れて行ってくれたのは、私が想像した町の小さなウナギ屋さんではなく、ちょっとした旅館のようなたたずまいの大きなウナギ屋さんだ。
予約をしてくれていたので、お店は混んでいたが個室のような部屋に案内された。デートで予約済みも初体験かも。
「食べたいものとかありますか?」
「いえ、ウナギであればなんでも」
「肝とかもいける口ですか?」
「もちろんです」
百瀬さんはお店の人と相談しながら、うな重から白焼きまで色々頼んでくれた。高校時代のお付き合いはどちらも子供だったし、大学に入ってからすぐに付き合い始めた三橋も「とてもとても」大人ではなかったので、こんな風にエスコートしてくれるのは、すごく安心できて心地よい。お姫様扱いがくすぐったい。
「林葉さんはどうしてバタフライだったんですか?」
「ちょっとお恥ずかしいのですが、同じチームの女子たちの胸がどんどん大きくなる中で、みんなのタイムが遅くなっていきました。私は、ほら、ね?そこまで成長しなかったので、他の女子たちよりも、水の流れがスムーズだったので。結果タイムが一番になったのでバタフライになりました。そうなりました。本来はメドレー選手なんです。なんでも泳げます」
「ははは、笑っては失礼になるのかな。僕は林葉さんのスタイル、とても魅力的に感じていますけどね」
「ももささんこそ――ごめんなさい、嚙んじゃいました。百瀬さんこそ高身長で逆三角形でスタイル抜群ですよね」
「林葉さん。モモさんいいですね。これからは……もしこれからもプライベートで会ってくれる事があるのであれば、私の事はモモさんって呼んでください」
「なんかすみません、口が回らなくって。私なんだか噛み癖があって」
「三橋君にもずいぶん嚙みついていましたもんね」
「え!?例の防犯カメラの映像を?……」
「え?……ははは、ちがうちがう。きつい言葉でやりあっていたという意味です」
私は顔が真っ赤になった。自爆してしまった。
別れた元カレ三橋コーチに、倉庫室やボイラー室で……フェラをさせられていた事が何度かある。いや、何度もある。それ以上の事も……ある。百瀬コーチが三橋に対して「このスクールには防犯カメラも設置されているから、プライベートを持ち込むな」と注意した事がある。百瀬コーチは私の、その、そういう動画を、「見た」とも「見ていない」とも明確にはしていない。でもあのタイミングのあの言い方からすれば、見たんじゃないか?と思うのが筋だろう。
そんな経緯があったので、百瀬さんから「三橋にずいぶん噛みついていた」と言われて、まあ遠くから見れば……噛みついているようなものだから……慌てて自爆してしまった訳だ。
「林葉さん。防犯カメラの事は過去の事です。もう忘れましょう。うな重が来る前に、白焼き。温かいうちに食べませんか?」
大人のモモさんには、今まで男性に感じた事がなかった、安心感とか、包容力をすごく感じる。
「百瀬さん」
「モモさんの方が良いですね」
「モモさん。じゃあ私の事もプライベートの時間は響子と呼んでください」
「それはこれからも、プライベートの時間を作ってくれると解釈して良いんですか?」
「もちろんです」
「でも女性を呼び捨てにするのはちょっと抵抗があります。なので響ちゃんと呼ばせてもらって良いですか?」
「はい。モモさんと響ちゃんでお願いします」
「わかりました」
とても楽しい時間だった。安心と落ち着きと。モモさんは呼吸が深くてゆっくりしているから、私の呼吸も深くゆっくりなっていく。一緒にいてここまでリラックスできる相手には、今まで会った事がないかも。
今までは無口でクールな印象しかなかったが、お話もすごく上手でわかりやすく楽しい。頭がいい人なのはすぐに理解できた。
「ごめんなさい。お待たせしちゃって」
「おお、スカート姿の林葉さんを見るのは初めてだな。可愛いですね」
「ありがとうございます。安物なんですけど、薄いピンクとフワフワ感が可愛くって買いました」
「いや、スカートが可愛いと言ったのではなく、林葉さんが可愛いと言いました」
私はドキッとした。元カレはこういうチヤホヤが一切無かった。私はあんたと呼んでいたし、あっちはお前と呼んでいた。初めて会った時からそうだ。大人の男性から、とても静かな口調で可愛いとか言われたのは、ちょっと記憶にない。満足感が高い。
「すみません。林葉さんを困らせちゃったかな。行きましょう」
百瀬さんの隣を歩いてウナギ屋さんに向かった。
スイミングクラブで働き始めてから7か月経つけれど、百瀬さんの事は何も知らなかった。歩きながら静かな口調で聞かせてくれる、百瀬さんの学生時代の話、背泳ぎでの苦労話はとても楽しかった。
百瀬さんが連れて行ってくれたのは、私が想像した町の小さなウナギ屋さんではなく、ちょっとした旅館のようなたたずまいの大きなウナギ屋さんだ。
予約をしてくれていたので、お店は混んでいたが個室のような部屋に案内された。デートで予約済みも初体験かも。
「食べたいものとかありますか?」
「いえ、ウナギであればなんでも」
「肝とかもいける口ですか?」
「もちろんです」
百瀬さんはお店の人と相談しながら、うな重から白焼きまで色々頼んでくれた。高校時代のお付き合いはどちらも子供だったし、大学に入ってからすぐに付き合い始めた三橋も「とてもとても」大人ではなかったので、こんな風にエスコートしてくれるのは、すごく安心できて心地よい。お姫様扱いがくすぐったい。
「林葉さんはどうしてバタフライだったんですか?」
「ちょっとお恥ずかしいのですが、同じチームの女子たちの胸がどんどん大きくなる中で、みんなのタイムが遅くなっていきました。私は、ほら、ね?そこまで成長しなかったので、他の女子たちよりも、水の流れがスムーズだったので。結果タイムが一番になったのでバタフライになりました。そうなりました。本来はメドレー選手なんです。なんでも泳げます」
「ははは、笑っては失礼になるのかな。僕は林葉さんのスタイル、とても魅力的に感じていますけどね」
「ももささんこそ――ごめんなさい、嚙んじゃいました。百瀬さんこそ高身長で逆三角形でスタイル抜群ですよね」
「林葉さん。モモさんいいですね。これからは……もしこれからもプライベートで会ってくれる事があるのであれば、私の事はモモさんって呼んでください」
「なんかすみません、口が回らなくって。私なんだか噛み癖があって」
「三橋君にもずいぶん嚙みついていましたもんね」
「え!?例の防犯カメラの映像を?……」
「え?……ははは、ちがうちがう。きつい言葉でやりあっていたという意味です」
私は顔が真っ赤になった。自爆してしまった。
別れた元カレ三橋コーチに、倉庫室やボイラー室で……フェラをさせられていた事が何度かある。いや、何度もある。それ以上の事も……ある。百瀬コーチが三橋に対して「このスクールには防犯カメラも設置されているから、プライベートを持ち込むな」と注意した事がある。百瀬コーチは私の、その、そういう動画を、「見た」とも「見ていない」とも明確にはしていない。でもあのタイミングのあの言い方からすれば、見たんじゃないか?と思うのが筋だろう。
そんな経緯があったので、百瀬さんから「三橋にずいぶん噛みついていた」と言われて、まあ遠くから見れば……噛みついているようなものだから……慌てて自爆してしまった訳だ。
「林葉さん。防犯カメラの事は過去の事です。もう忘れましょう。うな重が来る前に、白焼き。温かいうちに食べませんか?」
大人のモモさんには、今まで男性に感じた事がなかった、安心感とか、包容力をすごく感じる。
「百瀬さん」
「モモさんの方が良いですね」
「モモさん。じゃあ私の事もプライベートの時間は響子と呼んでください」
「それはこれからも、プライベートの時間を作ってくれると解釈して良いんですか?」
「もちろんです」
「でも女性を呼び捨てにするのはちょっと抵抗があります。なので響ちゃんと呼ばせてもらって良いですか?」
「はい。モモさんと響ちゃんでお願いします」
「わかりました」
とても楽しい時間だった。安心と落ち着きと。モモさんは呼吸が深くてゆっくりしているから、私の呼吸も深くゆっくりなっていく。一緒にいてここまでリラックスできる相手には、今まで会った事がないかも。
今までは無口でクールな印象しかなかったが、お話もすごく上手でわかりやすく楽しい。頭がいい人なのはすぐに理解できた。