ReTake2222回目の世界の林葉響子という世界線(裏)

3:EP14:百瀬からの告白

 モモさんとはウナギ屋さんでSNSを交換して連絡が取るようになった。長文だけど、前提があり、仮説があり、評価があっての結論のような文章は、私にはとても分かりやすかったし、すごく勉強になる。「やりたいからすぐ来い」とか短文で馬鹿なメッセージが多かった三橋とは全然違う。何気ない事柄でもこんな風に深く洞察している人がいるんだという事も驚いた。
 
 モモさんは大人だから?そういう性格だから?スイミングクラブにいる時には、事務所で二人きりになったとしても、絶対に私を響ちゃんとは呼ばないし、ウナギ美味しかったねとかのプライベートな会話はしない。たまたま二人きりになって、お互いのデスクで事務作業をしている時に、私のスマホにSNSの着信があった。確認すると私が目線を上げれば背中が見えるモモさんからのメッセージで「2月14日の夜は空いていますか?」という内容だった。私もモモさんにならってSNSで返信した。「空いてますよ。スイミングのアルバイトがあるから22時過ぎてしまいますが」と返した。
 モモさんがちょっと振りむいて笑顔でうなずいてまたメッセージが送られてきた。
「時間が遅いけど焼肉などいかがですか?」
「ああ、モモさんは私をお肉奈落に誘惑するのですね。断れる訳ないじゃないですか」と返信した。

 モモさんが連れて行ってくれた焼肉屋さんは、炭火七輪で煙がモクモクの大衆焼肉屋さんだけど、とても人気店だ。一度来てみたいと思っていたけれど、百瀬コーチに連れてきてもらえるとは思っていなかった。
「響ちゃん。今日はありがとう。サワーで乾杯」
「お誘いありがとうございます。来てみたい焼肉屋さんだったので嬉しいです。お酒は弱いので1杯しか飲めませんが、乾杯」
 モモさんはロースを中心にハラミやホルモン系も含めてバランスよく色々なものを注文してくれた。野菜も忘れずに注文してくれるのが嬉しい。
 私はお肉が好きなので、モリモリ食べた。三橋の前では「どうでも良い」という意識でモリモリ食べられた。他の男性の前では、かなり控えめに食べていた。モモさんの前だと受け入れてくれる安心感でモリモリ食べられた。
 お肉をモリモリ食べ終わり、デザートのアイスを食べていた。
「響ちゃん、今日はありがとうね」
「モモさん、ありがとうが2回目です。私こそお誘いありがとうございます。そしてこれ、お腹いっぱいだからタイミング悪いかもですが、私からのバレンタインのチョコレートです」
「響ちゃん、これは愛の告白って訳じゃないよね?」
「お世話になっているので、日ごろの感謝と最近定期的に誘ってくれて、美味しいご飯をごちそうになっているお礼です」
「そうだよね、ありがとう。僕からもこれ、響ちゃんに」
 モモさんは包装紙に包まれた小さな箱をくれた。
「これは?なんですか?……」
「良かったら開けてみてよ」
 私は丁寧に包装紙をはがして中の箱を開けた。そこには細い銀色のチェーンに、ハートマークの飾りが付いたネックレスが入っていた。私は箱をもう一度見ると「TIFFANY」と書いてあった。
「アルバイト中は付けられないし、付けたり外したり面倒かとも思ったんだけど、響ちゃんに似合いそうだとずっと思っていたので」
 私はちょっと言葉に詰まっていた。
「あんまり格好つけたくなかったから、ちょっと騒がしいお店を選ばせてもらったんだけど、響ちゃん。僕とお付き合いをしていただけませんか?貴女が面接に来た時に、三橋君の彼女である事はすぐにわかったから、あきらめようと思っていたけれど。初めて見た時から素敵な女性だと気になっていました」
 私はうつむいたまま顔があげられない。
「もし響ちゃんが嫌だと感じて、同じ場所で働けないと感じてしまったら心から謝罪します。自分でもこれ以上自分の気持ちにうそぶく事はできないなと思ったので、勇気出しました」
 私は少し顔を上げて言った。
「モモさん……とっても嬉しいし……だけど、監視カメラの映像をモモさんも見ているんですよね……自分でやらかした事だから、もう消せないから……」
「響ちゃん。何を言っているんだかわからないよ。監視カメラの映像って何の事?どうか僕とお付き合いをしていただけませんか?僕は義足で迷惑をかける事もあると思いますが、自分なりに精一杯、響ちゃんに尽くします」
 私は涙が出てきた。馬鹿な事をした。そのうちあんな行動が、自分をダメにすると思った。もう二度としない。そう思った。
「こんな私で良かったら、ぜひお付き合いさせてください」私達の歩みは始まった。
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