『夢列車』   ~過去行き、未来行き~
プロローグ
       ∞ プロローグ ∞
          
 不思議な列車に乗っていた。
 未来行き。
 乗車しているのはわたし一人だった。
 座席も一席しかなかった。
 窓から外を見たが、何も見えなかった。
 星が見えれば銀河鉄道なのだが……、
 
 ん? 
 チャイム? 
 音がした方に顔を上げると、ドア上のディスプレーに次の停車駅が表示されていた。
 それはカレンダーのような駅名だった。
 そして、かつて誰一人降りたことのない駅だった。
 
 何故わたしはそこに行くのだろう? 
 と考える間もなく物凄い熱風が送風口から噴き出してきた。
 息をするのも苦しいほどの熱風だった。
 すぐに全身が汗まみれになり、頭痛と吐き気が襲ってきた。
 
 ヤバイ! 
 もしかして熱中症か? 
 早く外に出なければ!
 
 急いで席を立って連結部分のドアの前に立った。
 
 早く開いてくれ!
 
 声を限りに叫んだが、ドアは開かなかった。
 床を強く踏んでも、ドアを叩いてもなんの反応もなかった。
 
 焦って、取っ手を探した。
 しかし、どこにも見当たらなかった。
 それならと、僅かな隙間に指先を入れて開けようとしたが、うんともすんとも動かなかった。
 それでも無駄な努力を続けた。
 なんとかしないと死にそうだからだ。
 しかし、その悪あがきが体温を更に上昇させて大量の汗を誘発し、全身が濡れネズミのようになった。
 額からは塩分の濃い汗が滝のように流れ出し、目に入ると痛みに変わって目が開けられなくなった。
 パニックのようになってドアを叩いた。
 叩き続けた。
 しかし、救助の手を差し伸べる人は誰も現れなかった。
 
 まさか、見殺しにされるのか? 
 
 そう思った瞬間、背後に何かを感じた。
 何者かが近づいてきているようだった。
 恐る恐る振り返って目をこじ開けると、その存在がぼんやりと見えた。
 とっさに目をこすった。
 その瞬間、体が固まった。
 身動きできなくなった。
 なんと、そこにいたのは異様な姿をした大男だった。
 
 そいつが薄気味悪い目でわたしを見下ろしてニヤッと笑った。
 そして両手が伸びてきて、耳を掴んだと思ったら体が宙に浮いた。
 抵抗して足をバタバタさせたが、それは無駄な努力に終わった。
 それを見て、そいつはまたニヤッと笑って歯を見せた。
 (のこぎり)のような尖った歯がどす黒く光っていた。
 その歯の間から剣山(けんざん)のような味蕾を持つ舌が伸びてきてわたしの顔を舐めると、一瞬にして顔が血だらけになった。
 ヒリヒリとした痛みに襲われたが、そいつは構わず顔から流れ出る血を舌ですくいとった。
 そして、美味しそうにゴクンと飲み込んだ。
 それを何度も繰り返して満足したのか、舌なめずりをして不気味な笑い声を立てた。
 
 声が止まると、口を大きく開けた。
 耳まで裂けたような大きな口だった。
 またニヤッと笑うと、わたしの頭をすっぽりと口に収めた。
 次の瞬間、鋸のような歯がわたしの首を捕らえ、その歯が皮膚に食い込んだ。
 
 うゎ~~!
 
 絶叫した瞬間、すべてが消えた。
 
 
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