『夢列車の旅人』 ~4人の想いを乗せて過去へ、未来へ~
 東海道線を各駅列車に乗って西へ下った。いろんな所で簡易宿泊所に泊まりながら日雇いの仕事をした。金ができると酒と女に使った。それを繰り返して浜松に辿り着いたが、疲れ果てて生きる気力がなくなっていた。浜名湖で死のうと思った。素面(しらふ)で入水自殺する勇気はなかったから、湖畔の居酒屋で酒を浴びるように飲んだ。意識朦朧の状態で湖に身投げするつもりだった。しかし、思う通りにはいかなかった。有り金全部を飲み干して立ち上がろうとしたら足が立たず、床にぶっ倒れて動けなくなった。ゲロをぶちまけたまま意識を無くしたらしい。
 気づいたら畳の上で寝ていた。居酒屋の座敷で、誰かが介抱してくれたらしい。ふらついて立ち上がることができなかったので壁にもたれて座っていると、年配の女性が水を持ってきてくれた。女主人だった。昨夜は大変だったらしい。何人かの客に手伝ってもらってやっとこさ(・・・・・)座敷に寝かせたと思ったら、むくっと起きて、「死ぬ~! 死ぬ~!」と何度も叫んで暴れたのだという。ほとほと手を焼いたと思い切り首を横に振られた。
 非礼を詫びると、事情を訊かれた。問われるまま話すと、何も言わず耳を傾けてくれただけでなく、「大変だったね」と慰めてくれたが、「でも、命あっての物種だからね」と諭された。それから、誰かに電話して何かを頼んでいた。最終的にその人の伝手で今の仕事をすることになったが、俺は死に損なって空っぽの人生を続けることになった。それからのことは端折る。紙が残り1枚になったのでビーちゃんに頼みたいことだけを書く。現世から逃れて過去で生きることを決断した俺の最後の願いを聞き入れて欲しい。
 
 
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