『夢列車の旅人』 ~想いを乗せて列車は走る。過去へ、未来へ~
 その夜、久々に夢を見た。
 しかし、列車に乗る夢ではなかった。
 松山さんと彼女の夢だった。
 二人はプチケーキセットを前にジャンケンをしていた。
 松山さんがグーを出し、彼女はパーだった。
 松山さんが天を仰ぐと、彼女が勝ち誇ったように両手で拳を握った。
 そして、ど・れ・に・し・よ・う・か・な、と指差しながら10個のプチケーキを品定めし始めたが、「これ!」とハート型のチョコレートケーキを手に取った。
「それ狙ってたんだよな~」と松山さんが悔しがると、「ご愁傷様」と彼女が口に入れた。
 その途端、恵比須さんのような顔になった。
 口福に包まれた彼女が「どうぞ」と手を向けると、松山さんは残りの9個を舐めるように見回してから、「これだ!」と花びらを(かたど)ったオレンジ色のケーキを手に取った。
 半分口に入れたところで視線を彼女に向けて、グイっと顔を突きだした。
 すると、彼女は一瞬驚いたような表情になったが、すぐに嬉しそうに笑って、松山さんの口から出ているケーキをくわえた。
 そして、少しずつ食べて二人の唇が合わさると、そのままじっと動かなくなった。
 少しして、二人の口が動き始めた。
 でも唇は離さなかった。
 キスを続けながら甘い時間が過ぎていった。
 
 
 
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