『夢の旅人』  ~過去へ、未来へ~
 10分後、誰かが階段から降りてくる音がしたので、息を潜めて姿が見えるのを待った。
 若い女性のようだった。
 赤いハイヒールのバックシャンが目の前の道路を左折していった。
 
 15分後、誰かが帰ってきた。
 若い男性だった。
 しかし、郵便受けには見向きもせずに、階段を二段飛ばしで上がっていった。
 
 25分後、年配風の女性が帰ってきて、郵便受けに寄った。
 しかし残念ながら、受け口を開けて覗いただけで、ダイヤル操作はしなかった。
 中は空っぽだったのだろうか? 
 その人は1階の奥の部屋に消えていった。
 
 それから10分経っても誰も帰ってこなかった。
 彼女を35分も待たせていたので痺れを切らしているに違いないと焦ったが、どうしようもなかった。
 誰かのダイヤル操作を確認するまではここで待つしかないのだ。
 
 それから20分ほど経った頃、白髪の男性が帰ってきて、郵便受けに近づいた。
 また顔だけ出して覗くように観察したが、もっと近づかないと手の動きがわからないので、音を立てないようにして老人の斜め後ろに歩を進めた。
 
 老人がダイヤル錠に手をかけた。
 しかし、まだよく見えなかったので更に近づいた。
 すると、老人の動きが止まった。
 何かを感じたのだろうか、顔がこっちに向いて、目が合った。
 老人の目の中には〈そんなところで何をしているのか〉という疑心が浮かび上がっているように見えた。
 わたしは頭を掻きながら老人に近づき、努めて平静を装って声をかけた。
 
 
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