『夢の旅人』 ~過去へ、未来へ~
「高松さんに用事があって伺ったのですが、いらっしゃらないみたいなので……」
老人は怪訝そうな表情のまま抑揚のない声を出した。
「高松さんは最近見ないね。音も聞こえてこない」
ということは、隣に住んでいる人なのだろうか?
それなら尚更警戒されないようにしなければならない。
怪しまれないように気をつけながら言葉を継いだ。
「どこかにお出かけなのでしょうか?」
「さあ~」
心当たりはないというふうに首を傾げたので、これ以上は話を続けられないと思って、突然思い出したような声を出した。
「あっ、お邪魔してすみません。どうぞ」
郵便受けの方に手をやって、中断した操作を続けるように促した。
そして、ダイヤル番号は見ていませんよ、という振りをするために体を道路の方に向けた。
それを見て安心したのか、老人が体の向きを変えたような音がした。
わたしは気づかれないように注意しながら頭だけをさっと動かして、老人の手の動きを観察した。
老人の手が動いた。
右に1回、そして、左に1回。
ヤッター!
老人に見えないように太腿に付けた右手の拳を握った。
その時、郵便物を手にした老人がこちらを向いたので、慌てて顔を道路の方に戻した。
すると足音が近づき、老人が正面に立った。
「どんな知り合い?」
まさか声をかけてくるとは思わなかったのでちょっとどぎまぎしたが、「仕事関係です」と言って切り抜けた。
老人はそれ以上は追及してこなかった。
しかし、不審人物の容姿をしっかり記憶するかのように視線をわたしの頭からつま先まで這わしてから、階段をゆっくりと上がっていった。
老人は怪訝そうな表情のまま抑揚のない声を出した。
「高松さんは最近見ないね。音も聞こえてこない」
ということは、隣に住んでいる人なのだろうか?
それなら尚更警戒されないようにしなければならない。
怪しまれないように気をつけながら言葉を継いだ。
「どこかにお出かけなのでしょうか?」
「さあ~」
心当たりはないというふうに首を傾げたので、これ以上は話を続けられないと思って、突然思い出したような声を出した。
「あっ、お邪魔してすみません。どうぞ」
郵便受けの方に手をやって、中断した操作を続けるように促した。
そして、ダイヤル番号は見ていませんよ、という振りをするために体を道路の方に向けた。
それを見て安心したのか、老人が体の向きを変えたような音がした。
わたしは気づかれないように注意しながら頭だけをさっと動かして、老人の手の動きを観察した。
老人の手が動いた。
右に1回、そして、左に1回。
ヤッター!
老人に見えないように太腿に付けた右手の拳を握った。
その時、郵便物を手にした老人がこちらを向いたので、慌てて顔を道路の方に戻した。
すると足音が近づき、老人が正面に立った。
「どんな知り合い?」
まさか声をかけてくるとは思わなかったのでちょっとどぎまぎしたが、「仕事関係です」と言って切り抜けた。
老人はそれ以上は追及してこなかった。
しかし、不審人物の容姿をしっかり記憶するかのように視線をわたしの頭からつま先まで這わしてから、階段をゆっくりと上がっていった。