『夢列車の旅人』 ~4人の想いを乗せて過去へ、未来へ~
 見たくはなかったが、気配を感じる方向に目をやると、階段を下りてくる光のようなものが見えた。
 それも二つ。
 何かはわからなかったが、目を細めると、動物のような輪郭が浮かび上がってきた。
 なんだ?
 凝視すると、動きが止まり、二つの光がこちらを向いた。
 しかし、それも束の間、音もなくこちらに近づいてきて、その姿がどんどん大きくなった。
 威圧されるほどの大きさだった。
 わたしは視線を逸らせてじっとしたまま、それが通り過ぎるのを待った。
 ところが、足元まで来た時、動かなくなった。
 
 突然、「シャー」という音が口から漏れた。
 明らかにこちらを威嚇していた。
 その目は見開いて吊り上がり、耳は後ろに反り、犬歯がむき出しになっていた。
 とっさに構えた。
 まだ手は自由にならなかったが、なんとか両方の拳を握って攻撃に備えた。
 しかし、そんなことで怯む相手ではなかった。
「ウウウー」という喉から絞り出すような低い声が漏れたと思ったら、いきなり跳びかかってきて、牙が顔を捕らえようとした。
 わたしは左腕で顔を防御して右の拳でそいつにパンチを繰り出した。
 しかし、拳はなんの手応えも得られず、空を切った右手はだらりとしたまま動こうとしなかった。
 それを見逃すはずはなく、そいつはくるりと1回転して着地した瞬間、次の攻撃を仕掛けてきた。
 既に勝負は決していた。
 ジャンプしたそいつの牙が無防備なわたしの喉に突き刺さり、血が噴き出すと共に鋭い痛みが襲ってきた。
 為す術もなく見下ろすと、そいつがニヤッと笑った。
 牙を深く突き刺したまま、あの老人が笑っていた。
「ウヮ~~~!」
 芯からの叫びで悪夢から解放されたが、飛び起きた上半身は小刻みに震えていた。
 下着は汗びっしょりになって、パジャマまで濡らしていた。
 ハーハーとした息がいつまでも止まらなかった。
 
 
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