『夢列車の旅人』 ~想いを乗せて列車は走る。過去へ、未来へ~
 走り出すと、彼女がスマホを出してなにやら操作を始めた。
 指が止まると、画面をわたしの目の前に持ってきた。
 写真だった。
 でも、なんのことかわからなかった。
 首を傾げていると、「レディッチ」と彼女が言った。
「アッ!」と大きな声がわたしの口から飛び出した。
 慌てて口に手をやりながら写真に焦点を合わせると、銅像が目に入った。
 ジョン・ボ―ナムの銅像だろうか、
 その足元には写真らしきものが置かれていた。
 彼女が指でスクロールして次の画面を出した。
 足元の写真が拡大され、松山さんと彼女の顔がはっきりと見えた。
 口を手で押さえたまま視線を彼女に移すと、彼女は笑みを浮かべて小さく頷いた。
 わたしが頼んだ翌日にバーミンガム美術館の知人にメールを送ったところ、二つ返事でOKしてくれたので、すぐに写真をラミネートして航空便で送ったのだという。すると、受け取った知人は間髪容れず現地へ持って行ってくれたので、今日に間に合ったというだった。
「お二人になんとお礼を言ったらいいか……、本当にありがとうございます」
 松山さんの喜ぶ顔が目に浮かんだわたしは、胸がいっぱいになって彼女に頭を下げた。
「良かったです、喜んでいただけて。あとでメールを転送しますね」
「ありがとうございます。大切に保存します」
 知り合いのキュレーターさんにくれぐれも御礼を伝えて欲しいとお願いした時、タクシーが止まった。
 目的地に着いたのだ。
 喜びに浸っている場合ではない。
 わたしは頭を切り替えて、臨戦態勢に入った。
 
 
 
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