『夢列車の旅人』 ~4人の想いを乗せて過去へ、未来へ~
 20分ほど歩くと、大きな通りに出て、右手にファミレスが見えた。
 1階が駐車場で、2階が店舗のようだった。
 ランチタイムが終わったのか、車が2台と自転車が3台しか止まっていなかった。
 
 店の中に入ると、がらんとしていた。
 窓側のテーブルに三組いるだけだった。
 わたしは躊躇わず壁側の席を選んだ。
 ここなら他の客に話を聞かれる心配がなさそうだからだ。
 
 店員がメニューを開いて、それぞれの前に置いた。
 アフタヌーンメニューだった。
 おいしそうなデザートセットが並んでいた。
 その甘さが落胆した彼女を救ってくれるかもしれないと思った。
 しかし、彼女がメニューを閉じると、テーブルを沈黙が支配した。
 彼女は何もしゃべらなかったし、わたしも声の掛けようがなかった。
 閉じたメニューに視線を落として、ボーっと見ていた。
 
 それでも、店員が注文を取りに来ると沈黙から解放された。
 彼女はデザートの盛り合わせセットを、わたしはコーヒーゼリーサンデーとパンケーキのセットを頼んで、笑みを交わした。
 しかし、店員がその場を離れると、また沈黙の餌食になった。
 彼女は窓側の方に視線を向けたし、わたしは壁紙の模様を見るともなく見ているしかなかった。
 
 少ししてセットが運ばれてきて、彼女の前にプチケーキ三種とホットコーヒーが置かれた。
 わたしの前には、小さなパンケーキと、コーヒーゼリーの上にアイスクリームが乗ったものと、ホットコーヒーが置かれた。
 彼女はブラックでコーヒーを飲んだあと、ガトーショコラに手を伸ばした。
 そして、ブリュレのココットとダブルアイスを一気に平らげた。
 わたしはまだパンケーキを半分も食べていなかった。
 追い付こうとパンケーキにナイフを入れた時、彼女のか細い声が耳に届いた。
 
 
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