『夢列車』   ~過去行き、未来行き~
 しばらくして返信メールが届いた。
 口座開設ができたらしい。
 必要事項を入力すると、また認証コードが送信されてきた。
 あとは取引パスワードを設定すればすべて終了で、明日から株取引ができるということだった。
 
 これでよし。
 次は資金。
 貯金はほとんどないので、借りるしかない。
 となると、消費者金融か。
 う~ん、多分すぐに貸してはくれるだろうが、金利が問題だ。
 う~ん……、
 しばらく唸っていたが、それでは埒が明かないので、ネットで調べることにした。
 すると、60日間利息無料という文字が目に飛び込んできた。
 えっ、本当? と何度も読み返した。
 しかし、嘘ではなかった。
 60日間無料のようだ。
 これなら問題なさそうだ。
 金利の心配をすることなく借りることができる。
 よし、決めた。
 明日お金を借りて、証券口座に送金することにした。
 
 あとは、未来へ行って株価を確認することだけだ。
 未来の駅の売店で日経新聞を買えばいいのだ。
 簡単だ、と思った瞬間、嫌な予感がした。
 買えるかもしれないが、その新聞を現在に持って帰ることができるのだろうか? 
 目が覚めた時にその新聞を持っているのだろうか? 
 それはあり得ない。
 夢の中の出来事は夢が終わると共に消える。
 形のある物を持って帰ることはできない。
 ということは……覚えて帰るしかない。
 でも、それが記憶に残っているのだろうか? 
 前回ははっきりと思い出すことができたが、いつもいつも思い出せるものだろうか? 
 う~ん、そうとはいえない。
 たまにごく一部を思い出すことがあるだけだ。
 急に不安になってきて、それがどんどん膨らんできた。
 すると、夢という形の中で見た未来の株価の信憑性に疑問が湧いてきた。
 
 その株価は本当に未来の株価なのだろうか? 
 間違いないのだろうか? 
 もしそれが本物でなかったとしたら……、
 
 急に恐ろしくなった。
 勢いでネット証券に口座を開設したが、もっといろんなことを確認しなければヤバイと思った。
 それがすぐに〈絶対にヤバイ〉に変わったので、消費者金融でお金を借りるのは見送ることにした。
 先ずは、未来で見る株価が本物であるかどうかの確認が先だ。
 欲に溺れて早まってはいけない。
 自らに強く言い聞かせた。
 
 
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