『夢列車の旅人』 ~想いを乗せて列車は走る。過去へ、未来へ~
しかし、その重い沈黙を彼女が破ってくれた。
その後のことを話し始めたのだ。
「兄が助けてくれたのです」
事件を知った高松さんは、画家への未練をスパッと断ち切って建設現場の日雇いを始め、全国を転々としながら毎月かなりの額を送金してくれたそうだ。
学校に行けず、アルバイトもできず、叔母の家で面倒を見てもらっている後ろめたさを取り除いてやりたいという気持ちからだった。
それだけでなく、行く先々からその土地の名産品を届けてくれて、それと共に愛情のこもった手紙を同封してくれたそうだ。
その手紙は宝物として大事にしまってあるという。
転機が訪れたのは、休学期間が2年になろうとした時だった。
キュレーターの道に進むことを勧めてくれたのだという。
「絵がお前を守ってくれるよ」
受話器から聞こえてきたその言葉がなかったら、今でも家から外に出られない生活が続いていただろうと彼女は言った。
「絵と向き合い、絵と話すことで、壊れた心が少しずつ元に戻っていきました。絵と共に生きるという道を見つけることができたからです。男性と恋をし、結婚をし、子供を産むという人生は諦めましたが、絵に恋をし、絵と結婚する幸せに巡り会うことができたのです」
彼女の視線がカンヴァスに向いた。
モネからルソーへ、そしてラファエッロへ。小椅子の聖母を見つめる瞳は美しく輝いていた。
辛い過去を吐露した時の歪んだ表情は完全に消えていた。
今を、そして明日から先を生きる意志が表れているように感じた。
その時、心が動いた。
そして、それが声になった。
「一緒に列車に乗りませんか?」
「えっ?」
彼女の横顔がゆっくりと向きを変えた。
「それって……」
わたしは彼女の目をじっと見つめて笑みを返した。
「未来へ行きましょう」
その後のことを話し始めたのだ。
「兄が助けてくれたのです」
事件を知った高松さんは、画家への未練をスパッと断ち切って建設現場の日雇いを始め、全国を転々としながら毎月かなりの額を送金してくれたそうだ。
学校に行けず、アルバイトもできず、叔母の家で面倒を見てもらっている後ろめたさを取り除いてやりたいという気持ちからだった。
それだけでなく、行く先々からその土地の名産品を届けてくれて、それと共に愛情のこもった手紙を同封してくれたそうだ。
その手紙は宝物として大事にしまってあるという。
転機が訪れたのは、休学期間が2年になろうとした時だった。
キュレーターの道に進むことを勧めてくれたのだという。
「絵がお前を守ってくれるよ」
受話器から聞こえてきたその言葉がなかったら、今でも家から外に出られない生活が続いていただろうと彼女は言った。
「絵と向き合い、絵と話すことで、壊れた心が少しずつ元に戻っていきました。絵と共に生きるという道を見つけることができたからです。男性と恋をし、結婚をし、子供を産むという人生は諦めましたが、絵に恋をし、絵と結婚する幸せに巡り会うことができたのです」
彼女の視線がカンヴァスに向いた。
モネからルソーへ、そしてラファエッロへ。小椅子の聖母を見つめる瞳は美しく輝いていた。
辛い過去を吐露した時の歪んだ表情は完全に消えていた。
今を、そして明日から先を生きる意志が表れているように感じた。
その時、心が動いた。
そして、それが声になった。
「一緒に列車に乗りませんか?」
「えっ?」
彼女の横顔がゆっくりと向きを変えた。
「それって……」
わたしは彼女の目をじっと見つめて笑みを返した。
「未来へ行きましょう」