『夢列車の旅人』 ~想いを乗せて列車は走る。過去へ、未来へ~
少しして、布生地に振動を感じ、擦れるような微かな音が続いた。
彼女の指が動いているようだった。
凄まじいほどの葛藤を乗り越えて指を動かしているのだろう。
過去と決別するという強い意志をエネルギーに変えて指を動かしているに違いない。
ほんの僅かな動きだったかもしれなかったが、それは太平洋を渡ってアメリカに辿り着くほどの距離に等しいのだと思うと、目頭が熱くなってきた。
それが目の中で湖になり、今にも溢れそうになった時、わたしの右手小指に温かいものが触れた。
彼女の左手小指の温もりだった。
その小指は微かに震えていた。
微かに?
それは信じられないことだった。
あの忌まわしい出来事以来初めて異性の手に触れたのに、この程度の震えで収まっていることは奇跡としか言いようがなかった。
その時、強い衝動が起こった。
それは彼女の手を握りたいという強い衝動だった。
その抑えきれないパワーがわたしの右手を宙に浮かせかけた。
彼女の左手の上まで持っていってストンと落とせば彼女の手を握ることができるのだ。
しかし、何かがそれを止めた。
それはラファエッロだろうか?
ルソーだろうか?
モネだろうか?
それとも原田マハだろうか?
いやそうではない。
高松さんに違いなかった。
「待つんだ。自分から動いてはいけない。あくまでも妹の意志によるものでなければならない」
高松さんの声が聞こえたような気がした。
わたしは浮かせかけた右手を元に戻した。
そして待った。
待ち続けた。
彼女の指が動いているようだった。
凄まじいほどの葛藤を乗り越えて指を動かしているのだろう。
過去と決別するという強い意志をエネルギーに変えて指を動かしているに違いない。
ほんの僅かな動きだったかもしれなかったが、それは太平洋を渡ってアメリカに辿り着くほどの距離に等しいのだと思うと、目頭が熱くなってきた。
それが目の中で湖になり、今にも溢れそうになった時、わたしの右手小指に温かいものが触れた。
彼女の左手小指の温もりだった。
その小指は微かに震えていた。
微かに?
それは信じられないことだった。
あの忌まわしい出来事以来初めて異性の手に触れたのに、この程度の震えで収まっていることは奇跡としか言いようがなかった。
その時、強い衝動が起こった。
それは彼女の手を握りたいという強い衝動だった。
その抑えきれないパワーがわたしの右手を宙に浮かせかけた。
彼女の左手の上まで持っていってストンと落とせば彼女の手を握ることができるのだ。
しかし、何かがそれを止めた。
それはラファエッロだろうか?
ルソーだろうか?
モネだろうか?
それとも原田マハだろうか?
いやそうではない。
高松さんに違いなかった。
「待つんだ。自分から動いてはいけない。あくまでも妹の意志によるものでなければならない」
高松さんの声が聞こえたような気がした。
わたしは浮かせかけた右手を元に戻した。
そして待った。
待ち続けた。