『夢列車の旅人』 ~4人の想いを乗せて過去へ、未来へ~
「目を開けてください」
 魂の抜けかけた彼女の額にロボコンが針を突き刺していた。
 それは、彼女の魂が自らの体から遊離する直前のことだった。
 目を開けた彼女にロボコンが囁いた。
「今なら戻すことができます」
 100歳を迎えたその日に老衰で亡くなったこと、そして、1回だけなら死ぬ直前に戻すことができることを説明した。
 そして、「あの列車で帰ることができます」とロボコンが窓を指差した。
 窓の外には〈過去行きの列車〉が停車していた。
 彼女は「すぐに」と言いかけて、ハッと口に手をやった。
 隣に座っているわたしの目が開いていないことに気づいたからだ。
「今仁さんの目も開かせて下さい」
 しかし、ロボコンは頷かなかった。
「それはできません」
「何故?」
 彼女は食い下がったが、「できないものはできないのです」とロボコンは悲しそうな声を出した。
 それでも彼女は救いを求めるような目で訴えたが、ロボコンは取り合おうとしなかった。
「時間がありません。お一人で〈過去行きの列車〉に乗るか、それとも、このままここに残るか、今すぐ決めてください」
 しかし、彼女は返事をしなかった。
 というより、決められないのだろう。
 首を振るばかりだったが、ロボコンは(なさけ)を殺すようにカウントダウンを突き付けた。
「スリー、ツー、ワン、」
 カウントダウンがゼロになった瞬間、わたしの魂が隣の列車に移動した。
 そして、ほぼ同時に列車が動き出した。
 先頭車両の上部にあるディスプレーには『過去行き』と表示されていた。
 車内のディスプレーにも同じ文字が並んでいた。
 
 スピードが上がり、『音速モード』になった。
 更にスピードが上がり、『光速モード』に突入した。
 尋常ではないスピードで目的地に向かっていた。
 
 先頭車両と車内のディスプレー表示が同時に変わった。
 断固として主張するような黒い太文字で『2020年駅行き』と表示されていた。
 
 連結ドアが開き、ロボコンが入ってきた。
 乗客を確認して、また連結ドアの先に消えたが、その後姿を見送る乗客は誰もいなかった。
 
 
 
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