『夢列車』   ~過去行き、未来行き~
「お待たせいたしました」
 店員が刺身の盛り合わせを運んできた。
〈マグロの希少部位三種〉だという。
 頭肉、ほほ肉、心臓だった。
 一尾から取れる量がごくわずかなので貴重なのだと高松さんが説明してくれた。
 
 わたしは今まで一度も食べたことがなかったので、興味津々で箸を伸ばした。
 先ず、頭肉を頬張った。
 濃厚。
 それに脂が半端ない。
 大トロにも引けを取らない旨味に驚いた。
 次は、ほほ肉。
 一尾のマグロから二個しか取れないのだという。
 通常は加熱することが多いらしいが、ここは漁協直営の店なので、生で食べられるらしい。
 ひと口頬張ると、筋が多いにもかかわらず意外と柔らかくて、脂も乗っていて、メチャクチャおいしかった。
 最後は心臓。
 牛のレバーのような食感で、ニンニク醤油との相性が抜群。
 思わず味蕾が小躍りした。
 
「初物を食べると75日長生きすると言いますから、三つだと、えーっと……」
「225日」
 瞬時に答えが返ってきたので驚いた。
「計算速いですね」
 わたしはうまく頭が回らず、足し算をしている最中だった。
 高松さんは〈そんなことで褒められても嬉しくない〉というように無表情のままジョッキに手を伸ばした。
 
 
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