『夢列車』   ~過去行き、未来行き~
「はまだはま、はまだはま、はまだはま……」
 仕事に行く前、名前を忘れないように何度も口ずさむようにしながら図書館へ急いだ。
 高松さんから教えてもらった女性作家の本を読んで、彼を喜ばせたいと思ったのだ。
 
 図書館に入ると、3台あるパソコンのうち1台が空いていた。
 ラッキー! 
 早速検索画面に〈はまだはま〉と入力して、マウスのボタンをクリックした。
 しかし、信じられない結果が表示された。
〈該当するものはありません〉と。
 ん? 
 入力間違いをしたのかと思って、もう一度やり直した。
 しかし、同じ表示しか出てこなかった。
 え? 
 ないじゃん。
 なんで? 
 ひょっとして聞き間違えたのかな? 
 高松さんの顔と声を思い浮かべた。
 でも、間違いなかった。
 間違いなく「はまだはま」と言っていた。
 それに、「はまだはまさん、ですね」と確認したら、大きく頷いたのも覚えている。
 自分の聞き違いでは絶対ない。
 
 確信が持てたので、もう一度入力した。
 しかし、結果は同じだった。
 憮然としたが、これ以上なす術もないので、腕を組んでディスプレーを睨みつけた。
 睨みつけても結果が変わるわけではないのだが、それでも睨みつけないと気が済まなかった。
 その時、背後に人の気配を感じた。
 振り向くと、中年らしき女性が見えた。
 パソコンが空くのを待っているようだったので、検索画面を閉じて席を立った。
 
 出口に向かおうとすると、受付に若い女性がいるのに気がついた。
 丸顔で優しそうな顔をしていた。
〈親切な人に間違いない〉というような雰囲気を漂わせていたので、この人に訊いてみようか、と一瞬その気になった。
 しかし〈そんな作家はいません〉と言われたら恥ずかしいので、すごすごと図書館をあとにした。
 
 
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