『夢列車』   ~過去行き、未来行き~
 その夜、最初の休憩の時、図書館でのことを高松さんに話した。
 すると、「ハラダマハだよ」と指摘され、「なんでハラダマハが〈はまだはま〉になるんだよ?」と笑われた。
「だって、はまだはまって言ったじゃないですか」
 不貞腐れて高松さんを睨むように見たが、〈原因をこっちに押し付けるな〉と言わんばかりの表情で、「私が間違う訳ないだろう。もう10冊近く読んでいるんだから」とわたしのおでこを人差し指で突いた。
「とにかく、原っぱの〈原〉に田んぼの〈田〉、マハはカタカナ。今度は間違えるなよ」
 そう言い残して、持ち場に戻っていった。
 わたしは彼の後姿を見送ったあと、勝手なことをブツブツ言いながら持ち場に向かった。
「浜田ハマの方が覚えやすいのに……」
 そして、仕事中ずっと呪文のように二つの名前を交互に呟き続けた。
「はらだまは、はまだはま、はらだまは、はまだはま、はらだまは、はまだはま……」


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