『夢列車』   ~過去行き、未来行き~
 困った。
 どうすればいい? 
 腕を組んで貧乏揺すりをしながら考えた。
 しかし、何も思い浮かばなかった。
 万事休す! 
 うな垂れたら、通路に落ちている週刊誌が目に入った。
 そうか、新聞も落ちているかも知れない。
 一気に元気になって、気力体力が漲ってきた。
 すぐさま構内を探した。
 目を皿のようにして、必死になって隅々まで探しまくった。
 しかし、どこにも落ちていなかった。
 やっぱりだめか……、
 一気に落ち込んだ。
 帰るしかないか……、
 改札口へ向かってとぼとぼと歩いた。
 
 すると、カフェが目に入った。
 通路に面した席で誰かが新聞を広げていた。
 おっ、チャンス! 
 思わず駆け出しそうになったが、咄嗟(とっさ)に思い止まった。
 ()いては事を仕損じる。
 慌てる乞食はもらいが少ない。
 短気は損気。
 走れば(つまづ)く。
 心を落ち着かせて、気づかれないように、すり足、差し足、抜き足、忍び足で近寄った。
 
 (そば)まで行くと、こちらに背を向けた男性がスポーツ欄を広げていた。
 もしかして、株式欄を読んだあとだろうか? 
 ちょっと不安になったので様子を見ていたが、残念ながら当たってしまった。
 スポーツ欄を読み終わると新聞を畳んで、テーブルの上に置いたのだ。
 そして、両手を大きく上げて、大あくびと共に上半身背伸びをした。
 その姿に見覚えがあった。
 知っている人によく似ていた。
 まさかと思って、その人の後頭部や背中をまじまじと観察した。
 そっくりだった。
 特に後頭部は瓜二つだった。
 絶壁の上に、つむじが左巻きだった。
 それも頭頂部から5センチ以上離れていた。
 こんな特徴的なつむじを持っている人はあの人以外思いつかなかった。
 もしかして……、
 ガラス越しにそのつむじを更に観察していると、その人が立ち上がって、振り向いた。
 
 
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