『夢列車の旅人』 ~4人の想いを乗せて過去へ、未来へ~
「先ず、何故ルネサンスの時代に行きたいのか? それは、オヤジの影響なんだ。画家を断念したオヤジだったけど、絵を描くこと自体は続けていたんだ。休日には必ず絵筆を持ってカンヴァスに向かっていたよ。その多くは偉大な画家の作品の模写だったけど、好んで描いていたのが、ダ・ヴィンチやラファエッロなどのルネサンス期の画家の作品だったんだ。だから幼い頃からそれらの絵に囲まれていて、絵=ルネサンス期という感じになったんだと思うよ。強制されたわけではなくごく自然にね。次に、何故フィレンツェか? それは両親の憧れの地だったから。二人とも海外旅行には一度も行ったことがなかったけど、もし行けたら絶対フィレンツェに行くんだっていつも言ってたんだ。だからフィレンツェに関するパンフレットや本がいっぱいあったよ。〈日曜日はイタリア語の日〉なんて言って、イタリア語の本を片手によく練習してたから、よっぽど行きたかったんだろうね。多分、フィレンツェは二人にとっての聖地だったんだと思うよ。私も両親と一緒に行ける日を楽しみにしていたから、フィレンツェへの憧れは両親に負けないレベルになっていたかもしれないね。それから、何故ラファエッロか? それは、『小椅子の聖母』の影響だね。オヤジの大好きな絵で何枚も模写していたよ。ある日、特別な1枚が描けたからと言って、カンヴァスを覆っていた白い布の前にオフクロと二人で座らされたんだ。〈ジャジャーン〉とか言って除幕式のようにゆっくりと白い布を下ろすと、とんでもないものが現れてさ。驚いたのなんのって、しばらく声が出なかったほどだよ。だって、聖母マリアの顔がオフクロの顔で、幼児キリストの顔が私の顔になってたんだからさ。そりゃあ、びっくりするだろ。でもね、恥ずかしいという気持ちが少しはあったけど、嬉しさの方が上回っていたね。オヤジに愛されているんだなって、なんか(あった)か~い気持ちになってさ。わかる? だから、ラファエッロは特別なんだよ」


< 40 / 221 >

この作品をシェア

pagetop