『夢列車の旅人』 ~4人の想いを乗せて過去へ、未来へ~
 今度は理解できた。
 何故ルネサンス時代のフィレンツェへ行ってラファエッロに会いたいのか。
 そして、両親の影響がとても大きかったことも。
「そこまではわかりました。で、ラファエッロの弟子になって、なんとかの絵を描きたいというのは?」
 高松さんは大きく頷いた。
「アテネの学堂。ローマのヴァチカン宮殿に『署名の間』というのがあるんだけど、そこに描かれたもっとも有名な絵の一つなんだ。特に『聖体の論議』と『アテネの学堂』が大好きで、美大に通っていた頃に本に載っていた写真を見ながら何回も模写したことがあるんだ。中でもアテネの学堂には古代の賢人たちが数多く描かれていて、模写しながらとても興奮したことを覚えているよ。ソクラテスだろ、プラトンだろ、アリストテレスだろ、ゾロアスターだろ、アレクサンドロス大王だろ、ユークリッドだろ、ヘラクレイトスだろ、ピタゴラスだろ、錚々(そうそう)たるメンバーだよね。それだけでも凄いのに、ラファエッロは更なる驚きを描き込んだんだ。なんだかわかるか?」
 わたしはなんの反応も返せなかった。
「賢人の顔を画家の顔にすり替えたんだ」
 プラトンの顔はダ・ヴィンチで、ヘラクレイトスの顔はミケランジェロなのだという。
「気づいた時にはアッという声が出ていたよ。ユーモアのセンス抜群だよね。それに、ダ・ヴィンチやミケランジェロに対する深い尊敬の念も感じたしね」
 まるで目の前にその絵画が置かれているかのように、指を動かしながら説明が続いた。


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