『夢列車の旅人』 ~想いを乗せて列車は走る。過去へ、未来へ~
「アテネの学堂はルネサンス絵画の頂点とも言われているんだ。その構図といい、遠近法やシンメトリーといい、彼が学んだ技術のすべてがつぎ込まれていて、正に、彼の才能が全開になった作品なんだ。その上、古代とルネサンス期の文化や宗教観を見事に表現していて、そのスケールと共に圧巻としか言いようがない大傑作なんだ」
 高松さんの目がランランと輝き、その顔は紅潮していた。
「彼の弟子になって一緒に描きたいんだよ。それができたら、もう死んでもいいくらいだ」
 居ても立ってもいられないというように、大きく開いた両手で目の前のカンヴァスを掴むような振りをした。
「行きたいんだよな、ルネサンスの時代のフィレンツェに。会いたいんだよな、ラファエッロに。なりたいんだよな、彼の弟子に」
 しかし、どうしてか急に表情が変わって、空中に差し出していた彼の両手が膝に落ちたと思ったら、フッ、と笑った。
「ありえないよな、そんなこと」
 そして、冷たくなっているであろう芋焼酎を一気に呷ってから立ち上がり、「お開き、お開き」と言って1万円札をテーブルに置き、そのまま出口の方へ歩いて行った。
 わたしはその後姿に向かって心の中で声をかけた。
「夢見れば叶う」と。


< 42 / 221 >

この作品をシェア

pagetop