『夢列車』   ~過去行き、未来行き~
8月25日~26日
       ∞ 8月25~26日 ∞

 仕事開始2時間前に工事現場へ向かった。
 松山さんを待ち受けるためだ。
 現場監督と接触する前に彼を掴まえて、欠勤理由を変更したことを伝えなければならない。
 しかし、そもそも、松山さんは未来から戻って来られたのだろうか?
〈情報漏洩〉という表示が消えて〈本人確認終了〉になって、過去行きの電車に乗れたのだろうか? 
 そこまで考えて、ふと疑問が沸いた。
 25日から25日に移動するのに電車が必要なのだろうかと。
 それ以外の移動方法があるのではないだろうかと。 
 もしかして……、
 ハッとして、歩く方向を変えた。
 
 浜松駅に到着すると、構内はごった返していた。
 会社帰りのピーク真只中だったので、多くの会社員が改札口から吐き出されていた。
 わたしはドキドキしながらカフェに向かって足を進めたが、抜き足差し足のような歩き方になっていた。

 あのカフェが見えた。
 ガラス越しの席に視線を向けた。
 居た。
 男性の姿が見えた。
 通路に背を向けて新聞を読んでいた。
 やはり思った通りだ、
 わたしは早足になってカフェに近づき、コンコンと二度、ガラスをノックした。
 その瞬間、男性がビクッとして背を震わせた。
 そのままの姿勢で両手がスローモーションのように下に向かい、新聞をテーブルに置いて、上半身を捻じってゆっくりと振り向いた。 
 顔が見えた。
 その瞬間、そっぽを向いて知らんぷりをした。
 松山さんではなかった。
 残念ながら、勘は外れていた。
 過去行きの電車に乗らずにカフェにいたまま現実に戻るのではないかと思ったのだが、そうではなかった。
 慌てて工事現場へ向かった。
 
 
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