『夢列車の旅人』 ~4人の想いを乗せて過去へ、未来へ~
いつも通りの時間に仕事場へ行き、1回目の休憩時にいつものコンビニに寄って、変な夢を見たことを松山さんに話した。
するとメチャ興味がありそうな顔をして、「いい女だったか?」とわたしの目を覗き込んだ。
頷きを返すと、彼女の顔やスタイル、特に胸やお尻のことを知りたがった。
「顔しか見ていません」
即座に否定すると、「もったいない。夢ならなんでもできるんだから」と言ってわたしの胸に右手を伸ばしてきた。
「止めてください」
わたしはその手を振り払って、体を斜めに倒した。
「冗談だよ。男の胸を揉む趣味なんかあるわけないだろ」
彼は右手をホットコーヒーが入った紙コップに戻してそれを持ち上げ、フーフーしてからずずっとすすった。
「人差し指を合わせたのはどういう意味があったんだろう?」
コーヒーを飲み続ける松山さんを見つめながら、わたしは独り言のようにブツブツと声を出していた。
「E・Tね~、なんだろうね~」
コップを置いた松山さんが両手の人差し指の先端をくっつけた。
「光るわけねえよな~」
接触した部分を近づけたり遠ざけたりしながら首を傾げた。
「地球外生命体にあんなきれいな女性がいるわけないし……」
わたしは頬杖をつきながら思わずため息を漏らしてしまったが、そんなことはお構いなしに松山さんは二つの指をクルクルと回し始めた。
「何やってんですか?」
「いや、なんとなく」
彼の視線はクルクル回る二つの指に注がれていて、最初はゆっくりだったクルクルのスピードがどんどん上がっていった。
器用なほど速く回せる松山さんの能力に驚きながらも、その指の動きに釘づけになった。
しかし、それが長続きすることはなく、これ以上は無理というスピードに達した時、二つの指がぶつかった。
ガタガタと音が聞こえてくるようなぶつかり方を何度もしたあと、右手の人差し指の上に左手の人差し指が乗って止まった。
「わかった!」
松山さんが叫ぶように言った。
「何がですか?」
わたしも大きな声を出していた。
「イニシャルだ!」
「イニシャル?」
「そう。Eが名前、Tが姓」
「あっ!」
思わずその名前を口に出しそうになった。
しかし、寸止めした。
「思い出したか?」
松山さんがわたしの肩に手をかけた。
「いや、そうじゃなくて、休憩時間が」
腕時計をした左手を松山さんの方へ差し出した。
「ヤバイ!」
松山さんはチャックを開けながらトイレに急いだ。
わたしはほっとして大きな息を吐いた。
この話をし出したら5分や10分では済まない。
それに、高松さんが16世紀のフィレンツェに行ってもう戻って来ないことや、東京にいる妹に言伝を伝えなければいけないことを松山さんにきちんと理解してもらうのは至難の業だ。
いつか話すとしても今ではないことは確かだった。
わたしは手にしていたスコーンを口に放り込んで、カウンターチェアから降りた。
するとメチャ興味がありそうな顔をして、「いい女だったか?」とわたしの目を覗き込んだ。
頷きを返すと、彼女の顔やスタイル、特に胸やお尻のことを知りたがった。
「顔しか見ていません」
即座に否定すると、「もったいない。夢ならなんでもできるんだから」と言ってわたしの胸に右手を伸ばしてきた。
「止めてください」
わたしはその手を振り払って、体を斜めに倒した。
「冗談だよ。男の胸を揉む趣味なんかあるわけないだろ」
彼は右手をホットコーヒーが入った紙コップに戻してそれを持ち上げ、フーフーしてからずずっとすすった。
「人差し指を合わせたのはどういう意味があったんだろう?」
コーヒーを飲み続ける松山さんを見つめながら、わたしは独り言のようにブツブツと声を出していた。
「E・Tね~、なんだろうね~」
コップを置いた松山さんが両手の人差し指の先端をくっつけた。
「光るわけねえよな~」
接触した部分を近づけたり遠ざけたりしながら首を傾げた。
「地球外生命体にあんなきれいな女性がいるわけないし……」
わたしは頬杖をつきながら思わずため息を漏らしてしまったが、そんなことはお構いなしに松山さんは二つの指をクルクルと回し始めた。
「何やってんですか?」
「いや、なんとなく」
彼の視線はクルクル回る二つの指に注がれていて、最初はゆっくりだったクルクルのスピードがどんどん上がっていった。
器用なほど速く回せる松山さんの能力に驚きながらも、その指の動きに釘づけになった。
しかし、それが長続きすることはなく、これ以上は無理というスピードに達した時、二つの指がぶつかった。
ガタガタと音が聞こえてくるようなぶつかり方を何度もしたあと、右手の人差し指の上に左手の人差し指が乗って止まった。
「わかった!」
松山さんが叫ぶように言った。
「何がですか?」
わたしも大きな声を出していた。
「イニシャルだ!」
「イニシャル?」
「そう。Eが名前、Tが姓」
「あっ!」
思わずその名前を口に出しそうになった。
しかし、寸止めした。
「思い出したか?」
松山さんがわたしの肩に手をかけた。
「いや、そうじゃなくて、休憩時間が」
腕時計をした左手を松山さんの方へ差し出した。
「ヤバイ!」
松山さんはチャックを開けながらトイレに急いだ。
わたしはほっとして大きな息を吐いた。
この話をし出したら5分や10分では済まない。
それに、高松さんが16世紀のフィレンツェに行ってもう戻って来ないことや、東京にいる妹に言伝を伝えなければいけないことを松山さんにきちんと理解してもらうのは至難の業だ。
いつか話すとしても今ではないことは確かだった。
わたしは手にしていたスコーンを口に放り込んで、カウンターチェアから降りた。