『夢列車』   ~過去行き、未来行き~
 E・T。
 えみ・とくしま。
 徳島絵美。
 間違いない。
 彼女は高松さんの妹だ。
 絶対に間違いない。
 その彼女が「私を探して」と言っている。
 それにしても、あの素敵な女性が高松さんの妹なんて……、
 仕事中は考えないことにしていたが、家に帰ると彼女の顔が浮かんできて、耳を甘噛みされた感触が、そして、柔らかな唇の感触がリアルに戻ってきた。
 わたしは右手の中指で唇を触って、忘れていないことを確認した。
 すると、猛烈に感情が高ぶってきた。
 会いたい。
 なんとしてでも会いたい。
 そして、もう一度甘い口づけを交わしたい。
 わたしは急いでスマホを手に取って二つのキーワードを検索画面に打ち込み、躊躇わずに検索ボタンを押した。
 
 すぐに検索結果が現れた。
 東京西洋美術館のキュレーターと表示されていた。
 7年前のラファエッロ展の企画担当が彼女だと記されていた。
 
 高松さん-ラファエッロ-徳島絵美、
 三つが一つに繋がった。
 しかし、残念ながら顔写真が掲載されていなかった。
 だから、夢と同一人物かどうかわからなかった。
 それに、困ったことになっていた。
 展示作品入れ替えのために9月末まで休館すると表示されているのだ。
 それだけでなく、電話やメールでの問い合わせも休止と明記されている。
 
 困った。
 連絡しようにも、その手段が見つからない。
 10月1日になるまで待つしかないのだ。
 しかし、大丈夫だろうか? 
 留守になっている高松さんの住居のことが気になった。
 家賃は? 
 電気代やガス代や水道代は? 
 新聞や手紙は? 
 気になり出したら、どんどん心配になってきた。
 家賃滞納で大家さんに訴えられるのではないか、
 貯金を没収されるのではないか、
 油絵も含めて家財道具を処分されるのではないか、
 いや、それより所在不明で捜索願を出されて警察沙汰になるのではないか、
 良からぬことがどんどん浮かんできて、頭の中を占領し始めた。
 しかし、解決の道は何も無かった。
 彼女と連絡が付かない以上、どうにも動きようがなかった。
 10月1日になるのを待つしかないのだ。
 彼女と高松さんのことは一旦忘れることにした。
 

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