『夢列車』   ~過去行き、未来行き~
 右に回すと、抵抗もなく開いた。
 鍵はかかっていなかった。
 そ~っとドアを手前に引いて中を覗くと、玄関には見慣れた靴が並んでいた。
 すべてわたしが履いている靴だった。
 
「こんにちは」

 囁くような声で様子を探った。
 しかし、返事はなかった。
 
「こんにちは」

 今度は少し大きな声を出したが、やはり返事はなかった。
 
「お邪魔します」

 自分の家なのになんか変だなと思いながらも、礼を失しないように気を付けながら靴を脱いだ。
 
 台所の電気は消えていた。
 様子を窺ったが、人の気配は感じなかった。
 台所と居間を隔てているガラス戸は閉まっているし、居間に電気は付いていなかった。
 
 誰もいないようなので音を立てないように戸をそ~っと引くと、敷きっぱなしの布団が見えたが、中に入ると嫌な臭いが襲ってきた。
 間違いなく中年臭だった。
 たまらずカーテンを引いてガラス窓を開け放った。
 その瞬間、ザーっという雨の音が視覚より先に聴覚に届いた。
 反応した手がガラス窓を一気に閉めた。
 土砂降りの雨が降っていることを忘れていた。
 窓を開けて空気を入れ替えることはできないので、台所に行って換気扇を回した。
 
 
 
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