千代子と司 ~スパダリヤクザは幼馴染みの甘い優しさに恋い焦がれる~
誰にでも公平であった少女だった日の千代子。
不平等さや理不尽に疑問を持つ事が出来た優しい女の子。それはまだ子供がどうこう出来るような事柄ではない、とても難しい話なのだとまだ分からなかった幼過ぎた年頃……。
思春期を迎え、それでもきっと彼女の心は真っ直ぐで、繊細だった。
やっと落ち着いてきた様子を見た司は千代子の背から手を離す。
「お酒はやめて、アイスコーヒーにしよっか」
千代子がハンカチで目元を何度も押さえる姿にソファーから立った司はパウダールームの場所を教える。涙で崩れてしまった化粧など司は何も気にしていなかったが女性にとってはそうも行かない。
ぱた、ぱた、と少し間のあるテンポの悪いルームシューズの音がなんとも頼りなく、千代子に終始、優しい眼差しを向けていた司ですら眉根を緩く寄せてしまう。
千代子がちゃんとたどり着けたのを確認した司はキッチンに回ると普段から出しっぱなしにしていたワイングラスではなく、丸いフォルムのアルコールでもソフトドリンクでも合うグラスを出して千代子と自分の為にアイスコーヒーを用意する。
暫くしてから戻って来た千代子は司に勧められたアイスコーヒーを受け取り、よく冷えたそれをひと口、飲み込む。
司に伝えたおかげか、ずっとわだかまりとして存在していた胸の重さが少し軽くなった気がした。
恥ずかしくも泣いてしまったが司はとても真摯に受け止めてくれた。たとえそれが大人としての社交的な建前だったとしても、確かな安心感が千代子の心に静かに染み入る。