千代子と司 ~スパダリヤクザは幼馴染みの甘い優しさに恋い焦がれる~


 それは司が親父と呼ぶ“本家今川組”の組長が連合自体の若頭であり組も当然の事ながら連合の直系、大幹部の一人であるからだった。規模は時代の波に押されて縮小されつつあったが今でも“本家今川組”は古参、頂点の格を持っていた。

 現在、本家今川組の組長は本来ならば連合の会長となっても良い年齢だったがその席は兄弟分の組長、中津川(なかつがわ)に譲ってしまった。本家今川組の組長である今川(すすむ)は栄華を誇ったバブルの時代を過ぎ、暴対法の厳しい強化により暴力団組織としての形態の大きな変化に奔走した結果、長年の無理が祟ったのか肺を悪くしてしまった。今では簡易的ながらも呼吸を補助する機器が常に必要となり、表側の経営者としても引退し、隠居生活をしている。

 そしてその人物は司の本来の意味での“親”ではない。
 書類上は養子縁組が行われた養親子(ようしんし)、義理の親子関係だった。
 しかしながら司が現在も名乗る“今川”の名字は千代子が知っているままに、変わっていない。

 司にとって義理の父親である本家今川組組長、今川進には連れ添う妻が今もいるが子供がいなかった。
 バブル時代に“今川三兄弟”と呼ばれ恐れられていた――司の義父である進が長男、次いで今は鬼籍の次男がおり、そしてその三兄弟の末である三男、今川(おさむ)が司の本来の父親だった。

 つまり元は伯父と甥の関係。
 進は司がまだ小さな時から事業が忙しいと言うのによく家に顔を出しに来ては大層、司の事を可愛がっていた人物だった。

 ・・・

 司に自分の現状を打ち明けた日から数日。
 相変わらず司は朝の挨拶や手が空いているらしい昼にも気軽なメッセージを千代子に送っていた。
 すっかりそれに慣れて来た千代子も他愛のない短い会話を交わす中にもちょっとしたことを――その日に作った料理の写真を添付していた。

 今の所、それくらいのごく緩やかな日常を千代子は送っていた。

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